歩いて五感で味わって、いばらきの 山と里に出会う旅~前編~
ランドネ 編集部
- 2019年11月25日
茨城県の北部に位置する県北地域。
地元の人が“ケンポク”と呼ぶこのエリアには、山々に囲まれた里で営まれる穏やかな暮らしの気配があった。
山を歩き、里を旅し、人と出会う。四角友里さんが巡る“ケンポク”の旅。
愛され⼭ですね――。⾬上がりの道をゆっくりと進む四⾓友⾥さんは、そう⾔って微笑んだ。しっかりと踏みしめられた道、登⼭者のために丁寧に作り込まれた杖、登⼭道を慣れた⾜取りで歩く地元の⼈々の姿……。ここには、⻑いあいだ⼤切に守られてきた⼭が持つ、優しい気配がある。
ケンポクと呼ばれる茨城県北部の⽇⽴市に位置し、神仏混淆の御岩神社の背後にそびえる御岩⼭。古くから信仰の地として開かれ、⼭全体で188柱もの神様が祀られていて、パワースポットとしても知られる。
杉の巨⽊と苔に彩られた御岩神社を抜け、標⾼530mの⼭頂に続く⼭道を進むと、道は次第に細く、険くなっていった。⾜元には岩がごろごろと転がり、周りを⾒渡せば、⾬露に濡れた葉が⾵に揺れていた。
「けっこう歩き甲斐がありますね。でも、登⼭⼝で杖を借りてきたから安⼼! このねじねじが持ちやすいんですよ」と友里さんは楽しそうだ。登山口から約1時間で山頂に到着。そこには、ケンポクの山々と里が織りなす美しい景色が広がってた。
「いばらきって、いいところ〜」
友里さんは深呼吸をした。
Data
御岩神社
茨城県⽇⽴市⼊四間町752
TEL.0294-21-8445
アクセス:⽇⽴中央ICから⾞で約10分。⽇⽴駅からバスで約35分
***
いばらきをめぐる旅の2⽇⽬は、常陸太⽥市の⾥美地区の森を歩くことに。案内してくれたのは、⾥美の地域づくりに取り組む「ポットラックフィールド⾥美」の岡崎靖さん。
〝⾥〞が〝美〞しいという名前に惹かれて移住し、やがてこの⼟地の⾃然や⽣活、⼈々に惚れ込んで現在の仕事を始めたという岡崎さんが連れていってくれたのは「塩の道」。かつて、⼭あいの⾥美地区と海を結ぶ道として利⽤されていた古道だ。
薄葉沢に沿ってゆるやかな上りが続く「塩の道」は、静かで美しいトレイルだった。杉が⽴ち並ぶ森は明るく、⾜元にはキツネノボタンなどの可憐な花々の姿も。⽔の⾳が響く道を歩きながら、岡崎さんがいろんなことを教えてくれる。森のことや花のこと、⾥美の暮らしのこと……。
「⾥美ではいまも林業が盛んなので、きちんと杉の枝打ちや間伐が⾏われています。だから森が明るくて、豊かなんです。針葉樹の森はどこか男性的で、広葉樹の森は⺟性的。僕はそう思うんです」と岡崎さん。
「⾳がすごいっ!」
そう話す友⾥さんは、とてもうれしそうに滝と向き合っている。
「⾊、⾳、匂い、⼿触り。ゆっくり歩いたから、いろんなものを感じられる。五感を使って歩く道ですね」
***
古道を歩いた後は「ポットラックフィールド⾥美」が運営する古⺠家で、⾥美の家庭料理を体験。荷見カツ子さんが教えてくれたのは、白と赤のマーブル模様の小豆「ムスメキタ」のおにぎりだった。
「昔はこのあたりにごちそうなんてなかったから、お嫁に行った娘が急に帰ってきたときに、この小豆とご飯を炊いて出したの。だからムスメキタ。早く煮えるし、おいしいんだから」
カツ子さんは、そう言っておにぎりの作り方を教えてくれる。
「うるち米だけでいいんですね!」
「外はしっかり、中はふんわり握ると良いのよ。そう、上手!」
「ピンク色でかわいい!」
ふたりはそんな会話を交わしながら、おにぎりを握っていく。そして、30分ほどでたくさんのおにぎり完成。カツ子さんが作ってきてくれたけんちん汁や里川かぼちゃの煮物とともに、おにぎりを味わうと、口の中にムスメキタの優しい甘味がふわり。
「おいしい!とてもシンプルなのに、特別な〝ごちそう感〞がありますね!」と友里さんは目を丸くする。
Data
ポットラックフィールド⾥美
茨城県常陸太⽥市折橋町858-1
TEL.0294-33-5313
アクセス:⾼萩ICから⾞で約40分。常陸太⽥駅から⾞で約30分
***
今回の旅で泊まったのは「ポットラックフィールド⾥美」から⾞で3分ほどにある横川温泉の「元湯
⼭⽥屋旅館」。⼭と森に囲まれた⼩さな温泉宿は、古くから名湯として知られ、その歴史はなんと30
0年。宿を切り盛りするのは、20代⽬若⼥将の⼩林美華さんだ。
「ようこそ、横川温泉へ。ご覧の通り、周りは⾃然ばかりですが、⼭⾥の静けさとゆるやかな時間の流れを楽しんでくださいね」
築250年の建物を改築した居⼼地のよい客室、とろりとした肌触りのお湯、地元のお⽶や野菜を使った美しい料理。ぜいたくな時間はゆっくりと過ぎ、翌朝⽬を覚ますと友⾥さんがにこにこと窓の外を眺めていた。
「障⼦から差し込む朝⽇って、なんだかテントから⾒る朝⽇と似ている気がします。やっぱり⽇本の光の取り込み⽅ってきれいだと思うなぁ」
旅の終わりに感想を聞くと、友⾥さんからはこんな答えが返ってきた。
「⾥に住む⼈の優しさが印象的でした。みなさんの暮らしを通じて⾃然を感じることができたから、私もケンポクが⼤好きになりました」
Data
元湯 山田屋旅館
茨城県常陸太田市折橋町1409
TEL.0294-82-2236
アクセス:那珂ICから車で約45分。常陸太田駅よりバスで約45分
*旅をしたのは*
四角友里さん
アウトドアスタイル・クリエイター。執筆活動やアウトドアウエアのプロデュースなどを通じて山の魅力を発信する。著書に『一歩ずつの山歩き入門』(小社刊)などがある
写真◎網中健太
原稿◎吉原徹
記事の詳細はランドネNo.109をご覧ください。
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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