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インティ・ライミという誇り

インカの末裔がよみがえらせた太陽神をたたえる祭りの正体とは?

いまから約500年前に栄えたインカ帝国。日本では応仁の乱が終わり、戦国時代へと突入する……そんな頃に、文字も車輪ももたない彼らは大帝国を築き上げていた。しかし実は、この帝国に関しては謎に包まれている部分も多い。彼らの文化は文字がない=記録が残っていないからで、それこそがいまなお多くの人の興味を引く理由のひとつかもしれない。

インカ帝国の中心はクスコだった。一時期は現在のコロンビアやチリ、アルゼンチンぐらいまで領土を広げていた帝国は、太陽や森、月や石など、あらゆるところに存在する神々を信じ、祈りを捧げてきた。そのひとつが、太陽神“インティ”である。インカ帝国最大の儀式だったといわれるインティ・ライミ(太陽の祭り)。インカの元日にあたる冬至を区切りに行われていたこの祭典は、父なる全能の神インティ(太陽)をたたえる重要な意味をもっていた。

しかし、スペインからの征服者たちがあまりにもあっさりとそれを一変させてしまった。異教の神を崇めるこの祭礼を禁忌と定め封じてしまったのである。1532年11月、ペルー北部にあるカハマルカで皇帝アタワルパを捕らえたスペイン人たちは、膨大な金銀を身代金として得た後、彼を処刑。この瞬間、インカ帝国は滅亡した。その後スペイン人は、“布教”を名目にした圧政を強めていく。それは彼らの文化や信仰までも消滅させることを意味していた。信仰を大義名分にした侵略、殺人、文化財の破壊。舞台となる宗教や地域は違えど、昔もいまも人間のやることは変わらない。

明らかになるインティ・ライミ

時が経ち、インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベーガという人物がまとめた『インカ皇統記』の記述を元に1944年に復元されたのが、いまに続く現代版インティ・ライミだ。カトリックの祝日である聖体祭との重複を防ぐため、開催日は実際の冬至より3日遅い6月24日と定められたが、ガルシラーソ自身も「ライミは6月の夏至(南半球の冬至)の後に挙行されていた」と記している。

著書によると、大祭の舞台はハウカイパタ(現在のアルマス広場)と、太陽神殿コリカンチャだったという。この地をあまねく照らす太陽がその姿を現すと、インカ王とその一族すべての者が両手を天に掲げ来光をたたえた。無垢なるリャマの子をいけにえに捧げ、次の遠征が成功するか、その年が豊作かどうかなどを占う。リャマの心臓以下、すべての内臓を無傷で取り出せるのが何よりの瑞兆であり、空気を吹き込んだ肺が見事に膨らむことは、太陽神の加護が得られる最高の証だったそうだ。

すべての儀式が終わると、大宴会のはじまりだ。ごちそうや酒は、太陽の妻である選ばれし乙女たちによって準備された。インカ王から貴族、下々に至るすべての人が祝宴に参加し、料理を味わい、心ゆくまで飲んだ。美しく着飾った踊り子や、力強い雄叫びをあげる兵士、楽士たちが盛り上げる宴席は、9日間も続いたという。

2016年のインティ・ライミ

例年同様、’16年のインティ・ライミも、本番は6月24日だった。1週間以上前から街がお祭りムードに包まれるのも、毎年変わらない光景だ。プラサ デ アルマスには観客用のスタンドが建てられ、街の至るところに虹色の旗が踊る。ちなみに虹色はインカ帝国のシンボルでもあった配色で、それがアレンジされたものが現在はクスコ市の旗として使われている。地元の学生たちが華やかな民族衣装をまとい、広場を囲む通りをパレードしている。コンテストが開催されているようで、大人たちがうれしそうな顔でパレードを眺めているのもほほ笑ましい。

本番が近づくほどに、盛り上がりは加速していく。踊り手や山車のクオリティもどんどん上がっていき、観光客も明らかに増えた。それに伴ってさまざまな屋台や土産物店が登場するだけでなく、仮設トイレがあちらこちらに建てられているのもおもしろい。前夜祭では夜空に花火が打ち上げられ、クスコの空に彩りを加える。そして24日当日を迎えるのである。

400年もの中断期間があったが、かの地の人々にとってインティ・ライミは二度と失うことのできない宝として定着している。それはインカの末裔だけに限った話ではない。かつては“消す側”の人間だった白人でさえも、ここで生まれ育ったクスコ人として、インカの精神を受け継いでいる。

 

ここからは、そんな年に一度の大祭であるインティ・ライミ本番を迎えるまでの1週間の様子を追ってみよう。

6月21日まで

アルマス広場では、早くもパレードがはじまっている。民族衣装に身を包んだ学生たちが、ハンドメイドの山車を引きながら、カテドラル前を練り歩く。よくも悪くも完成され過ぎていない感じが、逆にインティ・ライミは観光客に媚びていない=自分たちのための祭りであるという雰囲気を高めている。ただし車輪をもったクルマは「インカに似合わない」としてカモフラージュされる。

6月22日 本番2日前、空気が変わってくる

アルマス広場から北に延びるプラテロス通りも踊りのステージに。この通りとシエテクアルトネス通りとの交差点にある小さな広場は出番を待つ人でごった返し、参加者や観光客を相手に商売をしようと、どこからともなく屋台がやってくる。旧市街に入る大通り(エル・ソル通り)も山車の搬入等に伴う交通規制が敷かれ、タクシーでの移動がとても難しくなってくる。

6月23日 前夜祭こそこのイベントの真骨頂

広場を中心に開催される前夜祭。それまでは「いつもよりちょっと多いかな」ぐらいに思っていた観光客が、気がつけば移動するのが難しくなるぐらい密度を増している。太陽が沈んだ後、黄色いライトに照らされるカテドラルは、なんともいえない神々しさを放つ。女性たちが踊るのは、くるくると回転しながらスカート広げる定番の踊り。BGMはインカのフォルクローレだ。

6月24日 本番は毎年決まってこの日

コリカンチャからインティ・ライミははじまる。インカの石組に立つ王。しばらくここでインカの物語が演じられた後、広場に移動。学生たちの“手弁当” とはまったく異なる、完成度の高いパレードが繰り広げられる。午後は祭りの舞台を街の外にあるサクサイワマンに移す。インティ・ライミの説明にここの写真が使われることが多いが、実は祭りのごく一部に過ぎない。

 

今回は、インティ・ライミが開催される1週間の様子をご紹介した。インティ・ライミの盛り上がりを、感じていただけただろうか?インティ・ライミは、インカの精神を受け継ぐクスコの人々の誇り。ぜひ足を運んで、その盛り上がりを直に体験してほしい。

ペルー・クスコの街を徹底ガイド!|観光スポット、グルメ、お土産、ホテル

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2017年07月20日

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トリコガイドシリーズ 編集部

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オンは仕事をバリバリこなし、限られたオフはおもいっきり羽を伸ばして楽しむ!そんな大人のキャリアウーマンの「せっかくだから」を満たす、ちょっと贅沢な国内ガイドマガジン。

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