【スイスを旅する/後編】4,164mのブライトホルンを目指して!
ランドネ 編集部
- 2021年09月08日
ブライトホルンは氷河に覆われた標高4,164mの山。ノーマルルートは岩場のない氷河を登っていく、ヨーロッパで初心者向けの簡単なコースとして有名です。初めて4,000m峰に挑戦する人にはぴったり。氷河にはクレバスがあるので、万が一落ちてしまったときの引き上げやレスキューを考慮すると、行動の判断ができる国際山岳ガイドと行くことを強くおすすめします。
ブライトホルン1日目/高度順応と山小屋泊
この日は朝9時のゆっくりスタート。マムート・プロチームアスリートの国際山岳ガイドのカロ(スイス)、ナディン(オーストリア)、そしてアスピラント・ガイド(国際山岳ガイドを目指している)のロウ(イギリス)、フォトグラファーのフローレンス(スイス)とともに、メインストリートにあるマムートショップへ。
今回のメンバーは全員女性!スイスで女性の国際山岳ガイドは40人ほど。厳しい試験を通過したとても貴重な存在で、私は尊敬と憧れの眼差しで彼女たちを見つめてしまいました。小柄な彼女たちは自分より大きな男性のお客さんもガイドし、時にはレスキューも対応するのです。
そしてメインストリートを歩き、ヨーロッパで一番高い場所にかけられたロープウェイに乗車。標高3,883mのクライン・マッターホルンにあるマッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅へ。こんなに標高の高い場所へ簡単に行くことができ、ありがたい。
展望台でまずお茶タイムとお手洗い休憩。標高1,620mのツェルマットから一気に標高3,883mまで来たので、初めてこの高さに来た人にとって、高所順応をするお茶タイムは重要。私はスイス製のシロッコティーのバーベナをチョイス。5星ホテルでも出している人気の紅茶です。
ブライトホルンのノーマルルートは早朝に出発して日帰りも可能。しかし今回は、スイスとイタリアの国境にあるテスタ・グリジアにある標高3,480mの山小屋に宿泊予定。高所順応をしてから、明日の早朝に登頂アタックするプランです。
外へ出て、まずはアイゼンを装着。風が強く手がすぐに冷たくなるのでグローブをして作業します。緩いと不安定で歩きにくいのでしっかり留めます。その後、爪12本を雪にしっかりと全体的に食い込ませて滑るのを防止するため、メインガイドのカロがアイゼンの歩き方を指導。
そしてスキーコース沿いにマッターホルンの南壁を見ながら下りていきます。マッターホルンはツェルマットから見た形と随分違う!
小屋に到着する手前で、ロープワークやアイゼン歩行、ピッケルを使って滑落停止の練習を。ロープはカラビナにエイトノットで留めることが多いので、何度も練習します(自分で作ることができれば、ガイドに頼らず素早く山で行動ができます)。
スリングを使ってプルージックも何度も練習。山で即座に行動できるように、「1回できてもその後10回成功するまでやりなさい!」と、ガイドのナディンとカロが言います。
練習が終わると、朝ホテルが用意してくれたサンドイッチを山小屋で食べ、遅めのランチ休憩。山小屋の建つここはイタリア側。小屋のスタッフはイタリア人なので、イタリア語が飛び交い、スイスにいたのに世界がいきなり変わるのです!
空気が薄いせいか疲れやすく、呼吸が浅く感じるメンバーも。深呼吸をしながら、血液中の酸素が回るように、お水をたくさん飲みお手洗いに行くことで順応が早くなります。私はクリームたっぷりのチョコラータ(ホットチョコレートのイタリア語)を購入し、癒されました!(スイスフランで払うことも可能)。
夕食前にはマムートがサプライズで乾燥肉とチーズ、プロセッコ(シャンパンのような炭酸のお酒)を用意してくれ、アペル(夕食の前に軽いおつまみとお酒を飲むヨーロッパの文化)を楽しみます。まずはメンバーの自己紹介。国と仕事、登山についてシェア。そしてカロとナディンが明日の登頂アタックと装備について説明して、質問と雑談タイム。こんな交流の時間があると信頼関係が深まります。
夕食は野菜スープとトマトパスタ。そのあとにお肉とデザートがありましたが、アペルでお腹いっぱいになった私たちはスキップ。ドキドキしながら21時に就寝。山小屋では衛生面の都合でインナーシュラフの持参が必須です。
ブライトホルン2日目/登頂へ
翌朝は5時に起床し、朝食へ。食欲がなく、温かいコーヒーや紅茶を飲み、目を覚まします。
初めて4,000m峰を目指す方へ、アドバイスは2つ。行動食はバックパックを下ろさずすぐに取り出せるよう、ジャケットやバックパックのポケットなどいろんな場所に入れておくこと。水は行動しながらも飲めるハイドレーションが便利です。
6時にアイゼンを履きスタート。まずはマッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅を目指して、昨日歩いたスキーコース登っていきます。足元はビシッと圧雪がされていて、とても歩きやすい。朝焼けでマッターホルンが赤く染まっていくようすは、神秘的でとても素敵でした!
呼吸が苦しく登るペースが遅くなってもガイドが3人いるので、焦らなくても大丈夫。目が合えば微笑み合って、「Are you OK?」と言い合って気遣う。このひと言がとても支えになります。
ストックがあれば姿勢が良くなり登りやすく、胸が広がるので呼吸も少し楽になります。バックパックを下ろさずにストックを取ってあげたり、持参しなかったメンバーに1本貸してあげたり。バックパックのサイドポケットに入れた水も出してあげて、助け合います。
マッターホルン・グレッシャー・パラダイス駅近くまで到着すると、風はますます強くなり、この先はクレバスの危険があるので、2グループに分かれて、約15m間隔のタイトロープで結びます。バックパックを下ろしてピッケルとストック1本を準備。水分補給をし、少しお腹がすいてきたのでポケットに入れおいたチョコレートバーを口へ放り込みます。
まずはフラットな場所を歩いていきます。風は強いけれど、雲ひとつない天気で山の稜線がよく見えます!
ブライトホルン直下のスタートラインに到着すると、ここから急勾配が始まるので、私のグループのガイド・カロは、2~3m間隔のショートロープにチェンジ。距離を短くすることにより、だれかが転んだ瞬間に留まる可能性が高まります。そして気を付けたい点はロープのたるみ。もしクレバスに落ちた場合、たるんだ分長く引き込まれてしまうので、少し張り気味に前後のメンバーと息を合わせて登っていきます。
山小屋ではみな、緊張と標高の高さであまり眠れず睡眠不足でしたが、アドレナリンが出ているせいか、登頂アタックに気合が入ります。ピッケルは山側で持ち、しっかりアイゼンと一緒に雪へ食い込ませて登っていく。上がれば上がるほど風は強さを増し、ピッケルを差し込み立っているのがやっとな状態。カロは常に冷静で力強くロープを握る。本当にこんな強風で山頂に立てるのだろうか?と思うほどでしたが、なんとか2グループ全員が登頂!
もう少し景色を楽しみ写真を撮る余裕がほしかったけれど、危険度が増すので仕方ない。素敵な写真を2グループの中で動き回って撮ってくれた、フローレンスに感謝。下山は転ばないようにとにかく下るのみ!ラッキーだったのは、風が強いのに雪上は硬くならず、アイゼンが食い込みやすいベストな状態の雪質だったこと。これがアイスバーンだったら登頂は無理だっただろう……。山は毎日コンディションが異なるのです。
私は2人の子どもを出産後、子育てで余裕なく高所登山に行く機会がありませんでした。しかし今回は山と自分に集中し、素晴らしい体験をさせていただき学びも多かった。子どもたちをみてくれ、快く送り出してくれたパートナーと義母に感謝の気持ちがこみ上げました。そして各国のメンバーとの交流がとても刺激的でした。仕事をしつつ子育て中のママたちとは育児の大変さや仕事のやりがい、家族でのアウトドアをシェア。20代の若い世代とはSNSやアプリの使い方を教えてもらう。女性のツアーはお互いに自然と助け合い、寄り添ってくれる気持ちが大きいと感じました。スマホのアプリでグループを作り、いまもやりとりが続く素敵な仲間と思い出ができました。
4,000m峰が初めてでも、事前に体力をつけたりトレーニングをして、ガイドと挑戦すれば、ベストな状態を判断してくれ快適な登山を楽しむことができる。しかしガイドに頼りきらず、ロープワークや危機管理も学び、信頼関係をつくり、ともに山を楽しむ気持ちも大切だと思います。渡航が安全にできるようになった際には、いつかスイスで素晴らしい山の体験をしていただきたい!
その参考になれば幸栄です!
取材協力:スイス政府観光局
www.myswiss.jp
100% Women Peak Challenge サイト
https://peakchallenge.myswitzerland.com/en/
https://www.myswitzerland.com/en-ch/experiences/100-women/
ホテル・ダービー
https://www.derbyzermatt.ch/
山小屋
http://www.rifugioguidedelcervino.com/
西村志津 プロフィール
日本山岳ガイド協会認定 登山ガイドⅡ・スキーガイド・ヨガ講師。20代にスイスやウィスラーにてスキーとハイキングガイドをして活動。帰国後JMGA認定登山ガイドⅡとヨガアライアンスの資格を取得。結婚を機にスイスへ移住。現在は2児の母。オンラインにて「スイスツアー」や「登山者のためのヨガ」を発信中!スイスと日本の架け橋となる活動に努める。
https://linktr.ee/seas_yoga_hiking_skiing
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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