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高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の 「ヤマノハナ手帖」#4 ハクサンイチゲ

登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!

各地の山々で初冠雪が記録され、すっかり初冬。この連載の性質上、休載に追い込まれそうなものですが、そんなことはありません!第4回目は、夏をcomebackするハクサンイチゲ。

初夏~盛夏に各地の山を彩るいっぽう、あまりにメジャーすぎてローインパクトな花です。今回はあえてこの花をご紹介しつつ、不思議な“変化の術”もピックアップしてみましょう。

夏のアルプスを彩る代表格

ハクサンイチゲ(キンポウゲ科)
一般的な花期:6月~8月
主な生育場所:高山の岩場など

「Q.生育場所は、アルプスや八ヶ岳などのメジャーな山岳。夏に咲く白い花、しかも中型で群落をつくる花といえば、何でしょう!?」。こんなクイズがあるならば、答えは「ハクサンイチゲ」一択でしょう。さまざまな山を登った経験のある人ならは、「ああ、あれね!」と必ずや口にされる、親しみ深い花のひとつです。葉っぱはトリカブトの仲間(キンポウゲ科)らしくしっかりと切れ込み、明るいところが大好き!黄色ではないものの、ヒマワリを思わせる陽気さを備えます。

南アの大群落を、見たか?

ただ、あえて言うならば、その存在はややもって「当たり前すぎ」。私も、以前はあまり注目しないキャラクターでした。しかし、数年前のある夏、北岳にて大群落に遭遇して以来、印象が早変わり。無数の花が風に揺れるその光景は、まさに“天空の楽園”だったのです。これを見てからというもの、夏が来るたびにハクサンイチゲを思い出すようになったことは、言うまでもありません。

愛され系なツボミちゃん

そんなハクサンイチゲが咲き始める6月頃、フワフワの毛に包まれた、まるでぬいぐるみのようなツボミに出会うことができました。ちょうどガスのなかということもあり、水滴をまとってキラキラきらめいており、まるで細工もののよう。こうしたシーンに遭遇すると、「あとどのくらいで開くのかな~」とじーっと待っていたくなるものです。

中型?いえいえ、最初はおちびさん

背が高く、図鑑上でも「中型」「草丈は60cmにもなる」などと表現されるハクサンイチゲですが、咲き始めたばかりの頃は、おちびさん。周囲の草に埋もれるように花を咲かせるものも、少なくありません。ここから背を伸ばしながら、花の中心部にある黄色い葯(やく)が開き、さらに核にあるライトグリーンの雌しべが膨らんで……と徐々に変化していくのです。さて、今回はそんなハクサンイチゲの“変化の術”にも注目してみましょう。

その1「色変わりの術」

ハクサンイチゲに混ざって咲いている、なにやら怪しげなこのお花。斑入りに見えるこれは、「ミドリハクサンイチゲ」と呼ばれる変種です。見た目、そのまんまやないかい!というツッコミ必至ですが、面白いのは、極端に狭すぎる分布域。南ア付近以外にほとんど見られない、レアな花なのです。また、見た目も、花びら(に見えるがく片)の数が多く、完全な緑になっていないものまで、バラバラ。緑=葉緑素なので、光合成の高効率化を狙ったプロトタイプなのかもしれません。

その2「噴怒の術」

色変わりの術からの、さらにもうひと変化!なにやら花の中心部が大爆発。トゲトゲのもの(怒り?)が、噴出しているかのよう。じつはこのトゲトゲ、種なんです。ハクサンイチゲの場合は、白い花びらに見える、がく片の真ん中が黒くなったら、それが種です。いっぽうのミドリさんは、やや異なるのか、種が先に巨大化してしまうようですね~。美しいはずの花が妖怪チックに見えてしまうのは、まあ致し方ないことなのでしょう……。

その3「秘術・ひょっこりはん」

岩陰に芽吹いてしまった、でも太陽がほしい。そこでハクサンイチゲは、考えました。「そうか!太陽が見えるところまで、茎を伸ばしちゃえばいいんだ!」ということで、グイーンと背を伸ばして、岩陰からひょっこりコンニチハ。……えっ、茎が伸びただけじゃん、ですって?いやー、すみません。そうなんです(笑)。ただ、このタイプのハクサンイチゲはマイナーです。生き残るための気迫が伝わってくる、貴重なワンカットなんですよ。

さて、これまでハクサンイチゲの魅力にフォーカスしてきましたが、いかがでしたでしょうか。なお、もうひとネタだけ書いておきますと、「白山で発見された」という名の由来のわりに白山には多くなく、「イチゲ」(一花=ひとつだけの花)というわりに花数が多い(八ヶ岳のものは、確かに花数が少ないですが)という、未解明のナゾもまだまだあります。夏の登山道脇で見かけたら、スルーせずにじっくりと見てあげてくださいね!

それでは、また。
皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。

 

花ライター/会社員
成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです~!(笑)

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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