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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#33 BROOCH(ブローチ)

開くたびに
変わりゆく淡い想い

初めて読んだのは本屋さんの店先。発売されたばかりで、平積みになっていた表紙に惹かれました。植物と生き物、立ち去る女の子の脚。よく見るとタイトルにもなっているブローチが、コロンと落ちています。

開いてびっくり、絵も文も、トレーシングペーパーのように薄い紙に印刷されていました。数ページ先まで淡く透けるので、自分がいまどの文を読んでいるのか、どの絵を見ているのか、手前に奥にと視線が行き来して定まりません。破れないようにそっとめくるうちにこの絵本が持つ浮遊感に絡めとられ、脈絡があるようでないような絵と文をフワフワ追って読み終えました。正直に言ってそのときはピンとこなかった。でもなぜだかその後も本屋で見かけるとつい手に取ってみてしまう、そんな存在ではあったのです。

しばらくして、ある男性からこの絵本をプレゼントされました。いっしょに蝶のブローチを添えた、そのロマンチックさに私は感激しました。そして「てくてくが 徐々に どきどきに 変わって(略)ここに あった わたしのブローチ」……掴みどころのなかった物語から、急にこの文が目に飛び込んできたのです。

その後も「あなたが好きそうよ」と母に勧められたり、「誕生日おめでとう」と山好きな女性から贈られたり。この本のなにに私を感じてくれたのか尋ねることはしませんでしたが、そのたびに私は改めてページをめくり、違う絵が気になったり、何度も読んだはずの文が新鮮に目に留まることに気付きました。開くごとに違うページで心揺れ、それなのに本を閉じた途端、その想いは消えていく。

▲登頂記念としての山バッジにはあまり興味がなかった私。思い返しても説明しがたい山行での淡い想いに、形を持たせてそっと胸に留められる”山ブローチ”と考えると、俄然集めたくなってきました

そういえば、この絵本の読み心地は山歩きに似ている、と思いました。長い長い道中、歩いているあいだはいつも、言葉にならないような想いが頭に浮かんでは消えていきます。目の前の絶景を目にしているようで、そこにくだらない思い出を透かし見ていたりします。歩くほどに我が輪郭はどんどん失われ、山へと溶けていくあの感じ。素晴らしい体験を得た、と思ったそばから忘れていき、再訪しても二度と同じ時間は繰り返されない。

それでもなにかをきっかけにその山を思い起こすとき、かつては感じなかったほどの強いメッセージを持って、胸に迫ってくることがあるのです。

今回久しぶりにこの絵本を開いてみたら、「時には わけがわからないくらいの方が いまを味わえるのかもしれない」という言葉にハッとし、そこに続く「なんて のんきに思ったり」で肩の力が抜けました。ああいま、そんなフワリとした山歩きがしたいな。

今回の絵本は……

BROOCH

絵 渡邉良重
文 内田也哉子
リトルモア

掴めたと思った途端に逃げていく絵と文のハーモニーは、視覚や触覚に訴えるデザインあってこそ。手に取ってはじめて味わえる、美しく不思議な絵本体験です

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良

テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は13年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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仲川 希良

モデル/フィールドナビゲーター

仲川 希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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