ピッペン|海に通い続ける事が、マジックボードを呼び寄せる第一歩
NALU 編集部
- 2021年10月13日
『マジックボード』。それは、外見上のアウトラインやロッカー、さらにデータ上の数値といったものでは計り知れないような、特別なフィーリングを伴ったサーファーとサーフボードとの一期一会の出合いです。そして時に、自分や自分の周りの者達の人生までをも一変させてしまうような、強烈な体験となるのです。そこで、著名なサーファー達が経験した『マジックボード』との出合いやストーリーに耳を傾けてみた。
シングルフィンを追求してきたPIPPENが見せてくれたのは、目下愛用するマジックボード。それは実力派ボートビルダーが生み出す新世代ログ。
見た目は上級者向け。でも乗ると「マジック」を感じるほど意のままに動く。
自分にとってのマジックボードを紹介してくれないかと聞いたところ、ピッペンがすぐにその名をあげてくれたのがネトルトンサーフボード。なかでも「マルチプライ」モデルはここ数年愛用しているボードだという。日本ではまだ馴染みが薄いブランドかもしれないが、オーストラリアを代表するロガーのベリンダ・バグスが乗っているボードといえば思い当たる読者もいるだろう。サーフボードビルダーのショーン・ネトルトンはまだ30代半ばとシェイパーとしては若い世代に入るが、シェイプからラミネートまですべて自分で行う、まさしくクラフツマン。バイロンベイをホームとし、そのクオリティと乗り味の良さから近年着実に支持を集めている。ちなみにショーンは(自身からはあまり言わないということですが)妻の父があのレジェンド、ウェイン・リンチ。無論サーフィンも共にしているようで、ウェインとの交流がシェイパーとしての実力に益するところも少なくなさそうだ。
ピッペンがはじめてショーン・ネトルトンと出会ったのは2018年。出会いの場は日本でもオーストラリアでもなく、コンテストで向かった旅先でのこと。「フィリピンで開催されたバンズのコンテストに行ったら、試合に来てたベリンダと会ったんです。そのときショーンもそこにいたんですよね。一緒に海に入ってボードを交換して乗ったらすごく調子がよくて。その場でオーダーして帰ったんです」。
そこで10本ものオーダーを入れたというから驚きだが、これまで多くのサーフボードを見てきたピッペンにそれだけの判断をさせる魅力があったに違いない。
「とにかくボードがピタッと海にくっついてる感じがするんですよ。乗った人みんなが口を揃えて言うのは、パドルしただけでスムースさを感じると。するする進んでとにかく速いです。たぶんロッカーがすごくいいんでしょうね。僕のは9’6”あるんですが、長さがあってもめちゃくちゃ動きやすいです」。
▲1本目に作ったときより、多少ロッカーがつけられているという2本目のマルチプライモデル。水面にすいつくような感触はそのままに、取り回しのしやすさがさらにあがった
アウトラインはクラシックなログを踏襲しているように見えるが、特徴的なのはラウンドスクエア気味のノーズエリア。当然、浮力が増しウォーキングする際の視覚的な安心感も出る効果もありそうだが、それよりピッペンが強く感じたと教えてくれたのは、揚力、つまりリフト感。
「いいノーズライドができるボードは、浮力にプラスして揚力とスピードが絶対に必要な条件だと思うんですよね。同じオーストラリアのトーマスサーフボードもそうなんですけど、その揚力っていうのはカリフォルニアのボードよりもすごく感じます」。
そんな話を聞くと知りたくなるのがノーズコンケーブやテール形状。ノーズをリフトさせてくれる特殊なデザインがきっと施されているのだろうと思いきや、意外にも「それがすごくシンプルなんですよ」とのこと。
「ノーズコンケイブはうっすら入っている程度。テールにキックがついていたりするわけでもなくて。ノーズライダーと言われるものってかなりデザイン的に施してあったりするんですけど、これぐらいシンプルな方が揚力とスピードがついて速いんじゃないかって思うようになりましたね。ノーズライドのためにいろんなデザインが付け加えられればノーズは浮きやすくなります。ただそうなると浮力だけでサーフィンをさせてるっていう気がするんですよ。ネトルトンはその揚力やスピード感が、上級者はもちろん初心者でも中級者でも感じられる。そういう意味でもいろいろ気づかせてくれたボードです」。
デザイン上のもうひとつの特徴となっているのが薄いレール。今回紹介してくれたボードはピッペンにとって2本目のマルチプライ。同じモデルながら1本目に比べるとアップデートがあり、その一番の違いは「軽くなったこと」。厚みは3インチだが、その数値を感じさせないぐらいレールは薄めで、特にテールエンドはショートボードよりも薄いほど。スモールウェーブでも長いカールのあるオーストラリアのポイントブレイクでは見かけるデザインだが、これがまた日本のビーチブレイクでも気持ちよくコントロールさせてくれるのだと話す。サーフボードの機能は1ヶ所を取り出して語ることはできないものだが、ビーチブレイクでは厚めのレールというのがなかば常識となっているなかで、このアプローチは斬新とも言える。聞けば聞くほど興味の湧いてくる1本で、マジックボードとして紹介してくれたのも納得だ。
▲このモデルは標準設定で1/2インチという太目のストリンガーが用いられているが、それは薄さによるフレックスをコントロールするためではないかというのがピッペンの推測。自身のボードは1インチのストリンガーにカスタムしている
海に通い続けることが、マジックボードを呼び寄せる第一歩になると思う。
さて、長年サーフショップを運営しているピッペンに聞きたい質問をもうひとつ投げかけてみた。それは多くのサーフボードに乗れるわけではない一般のサーファーが、マジックボードと出合うにはどうすればいいか? という難問。「う~ん」としばらく考えたあと返してくれた答えは、シンプルそのもの。
「やっぱりサーフィンしまくること、じゃないですかね。本やネットだけを見てるだけじゃダメで、現場に行くしかないってことだと思います。サーフィンに通い続けていたら、いろんなサーフボードに巡りあう可能性も高くなるし、マジックボードを呼び寄せると思うんですよね。波のよいところに行けば、いい情報やいいサーフボードに溢れてるはず。僕もこのネトルトンはフィリピンで出合ったし、オーストラリアで出合ったいいボードもあります。自分がまず波のいいところに行って、そのチャンスさえ逃さなければマジックボードと出合う1歩目になるんじゃないでしょうか」。
Profile
愛知県生まれ。国内外のシングルフィンイベントに出場し、数々の上位入賞経験を持つ。店主を務めるPIPPEN STOREは、名古屋発のセレクトショップ的サーフショップとして東海エリアのアイコン的存在。世界のトップロガーたちとも繋がりが深く、カルチャーとしてのロングボードを日々発信している。
「マジックボード」の記事はこちらから。
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text: NALU, Mitsuto Matsunaga photos: kemmy film
◎出典: NALU(ナルー)no.121_2021年7月号
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NALU 編集部
テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。
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