モデル仲川希良の「山でお泊まり」八ヶ岳・硫黄岳編Vol.3

現在発売中の雑誌『ランドネ』９月号からスタートした、モデル／フィールドナビゲーター仲川希良さんの新連載「山でお泊まりレポート」。

スペースの関係で誌面に収めきれなかった情報は、こちらのサイトで偶数月に美しい写真とともにお伝えしてきます！

第一回目の八ヶ岳・硫黄岳編は全４回でお届け予定。 Vol.１（登山口から山小屋までの道のりについて）、Vol.２（山小屋内をリサーチ！）に続き、今回は登山道で出会った「花」についてレポートします。

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今回の一番のお目当てだった「花」。山で植物の観察をするのが好きなので、とても楽しみにしていました。

なかでも、出発前に硫黄岳山荘に電話をしたときに教えていただいた「ツクモグサ」と「ウルップソウ」。ご主人の語り口は静かで控えめながらも、「ぜひ今この時期に見てほしい！」という情熱が滲み出ているのを感じて、思わず調べてみました。

どちらも分布地がかなり限られていて、本州では北アルプスの一部と八ヶ岳の一部、そして北海道のみ。絶滅が危惧されるほど貴重な種類のようです。

▲オサバグサ。おとぎ話のなかで妖精が鳴らすベルのよう

木漏れ日がきらめく八ヶ岳の森で輝く花々。有名無名、私は詳しくないのでわからないけれど、どの花もそれぞれに魅力的で目を奪われます。見つけた分は全部写真に撮ってみようと思い立ち、デジタルカメラでパチパチと収めてみたら……なんと2日間で40種近く集まりました！

樹林帯を抜けた先の、岩や砂に覆われ乾いた土地でも、風に吹かれながら咲く高山植物の姿には、やはり格別の愛らしさがあります。
決して主張することなく、与えられた環境のなかで花開く。その一つひとつの美しい造形に目をこらしていると、尊敬の気持ちすら湧いてきます。

▲オヤマノエンドウ

▲イワウメ。岩の隙間からこぼれるように咲くようすがたまらない

花に見とれて歩きに時間がかかってしまい、ようやくたどり着いた硫黄岳山荘。その周りでは、まだ時期が早いだろうと諦めていたコマクサ、そしてあのウルップソウも見つけることができました！　うれしい！

▲コマクサ。高山植物の女王

▲ウルップソウ

想定外に良いお天気で、あの花もこの花も見れたとはしゃぐ私を、ニコニコと迎え入れてくれた小屋のスタッフのみなさん。せっかくだからツクモグサも見たかった、なんて欲張りを言ったら、「きっとあそこならまだ咲いているはずですよ」と、咲いている場所を丁寧に教えてくれました。
翌朝もお天気が持つようだったら探しにいこうと決めて、今日のところは小屋でゆっくりすることに。

▲小屋でいただいたコーヒー。使い込まれた木のコースターには、コマクサの焼印

それにしてもなんて居心地の良いところだろう。水回りがきれい、といった設備面ももちろんだけれど、雰囲気が良い。スタッフのみなさんがそれぞれに個性的な笑顔で、のびのびされているのが伝わってくるのです。
そういえば初めはランドネ編集長から「小屋のスタッフが素敵だった」と聞いて、硫黄岳山荘を知ったのだと思い出して伝えると、「わあうれしい」と恥ずかしそうにクスクス笑い。
大人になってから山登りを始めて小屋勤務はここで二軒目という女性や、毎年この時期にネパールから手伝いに来るという男性。それぞれに濃いストーリーがありそうなのに、「この小屋がとても良かったから」「先代のご主人と奥様もとても素敵なんですよ」と、口にする言葉は控えめ。

決して恵まれているわけではない環境のなかで、笑顔を絶やさず、登山客を受け入れながら日常を送る……そんな山小屋のスタッフさんは、この日たくさん出会った山の花々の姿と重なる気がして、なんとも美しいなあとほれぼれしたのでした。

翌日、ツクモグサが咲いていると教えていただいた場所は、なかなかの難所。ハシゴや鎖にしっかり捕まりながら斜面に目をこらすと……いました！　ツクモグサ！

コロンと丸みを帯びた花は白い産毛に覆われ、淡いレモン色の花びらの付け根に薄墨のような青が滲んでいます。
唯一無二の美しさをたたえながら、厳しい風に絶え間なく揺れるようすには、やっぱりただただ見とれるしかありませんでした。

＊＊＊おまけ＊＊＊

硫黄岳山荘で買ったおみやげ。
どれもこれもかわいくてなかなか選びきれなかったです……！
今回出会えたツクモグサとコマクサがあしらわれたワッペン、それから高山植物がたくさん描かれたバンダナにしました。花をテーマにした登山にぴったりでしょ♪

次回は、下山中と、ふもとの町でのお楽しみについてご紹介します。

写真◎加戸昭太郎