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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#08 フレデリック

心のなかに何度も山を思い浮かべた年でした。息子が生まれて、コロナ禍となって。山どころか近所でさえ気軽には歩けない毎日。それを苦に思う暇もなかったけれど、日々を重ねるなかで気づかないうちに少しずつ、心が固くなるような、自分自身の風通しが悪くなっていくような感覚は、ちょっと苦しかった。そんなときよく、山のことを思い出していました。

ゴツゴツした枝に行儀よく並ぶ、カラマツの新芽の柔らかな感触。腕や足元にくっきりと葉陰を落とす、まっすぐな日射し。紅葉の盛りを過ぎた葉が一枚散る、その音さえ耳に届く静寂。

そしてやっぱりあの空。赤に青に金色に、刻々と色を変えて、私の心模様まで塗り替えるあの存在感。この街のものともつながる同じ空であるはずなのに、山の空はなぜあんなに大きく感じるのかしら。

山の一つひとつを思うたび、私の心に光が差し、風が吹き抜けます。そして空がつながっているように、土地もまたつながっているのです。思い浮かべたその世界はいまも確かに、この足元の延長線上に存在しているという事実は、日常や世の中のせわしなさを超え、自分の健やかさを取り戻させてくれる気がします。

厳しい冬があるからこそ、春から秋の喜びがある。雪山を歩いてそう実感してからは、雪景色は山の全てを内包しているように感じる。だから真っ白な山を心に描くときに広がるのは、静けさと豊かさ

 

レオ・レオニの描くフレデリックは、まさにそんな力を与えてくれるネズミです。冬に向けてせっせと食料を集める仲間の横で、フレデリックはジッとしているばかり。お日様を浴び、牧場を見つめながら、「こう みえたって、はたらいてるよ。」と言います。

やがて厳しい冬がきて、食料も底を尽き、みんなの元気がなくなりかけたとき、フレデリックは自分が集めたものを披露します。光、色、そしてそれらを届け、楽しませる言葉。フレデリックが語るたび仲間の心は動き、暖まり、「きみって しじんじゃ ないか!」と拍手喝采するのです。

詩は、おなかを満たしてはくれないけれど、心を満たしてくれる。私たちはみんな心のなかにフレデリックを1匹、そっと住まわせるべきじゃないかしら。

どんなときでも、心のなかは自由。私がいつも思っていることです。そして私の心には山がある。たとえ足を運べなくとも、自分自身のなかにあの素晴らしい世界を思い描けることは、私が山からもらった一番大きな力です。

きっとハッピーばかりじゃない新しい年も、心に山を。忘れずに過ごしたいと思います。

 

 

フレデリック
(レオ=レオニ、谷川俊太郎・訳/好学社)
サブタイトルは「ちょっと かわった のねずみの はなし」。目に見える仕事だけが人々を支えているわけじゃない。原本で「しじん」がどう表現されているのか気になっています

 

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの11年目。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。新著『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』(小社刊)が発売!

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仲川 希良

モデル/フィールドナビゲーター

仲川 希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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