モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#15 ねえさんといもうと
仲川 希良
- 2021年08月01日
「ねえさんといもうと」は物心ついたときから本棚に並べられていました。あれこれ世話を焼いてくれる姉さんを尊敬しつつ、妹はあるときふとひとりになりたくなって、こっそり出かけてしまいます。その小さな家出をきっかけに、なんでもできると思っていた姉さんの自分と変わらない一面や、自分に向けられていた思いやりに気づく妹。ふたりの関係がちょっぴり変わる、成長の物語です。
私にも姉がいるので、母はきっと私たちをこの姉妹に重ねて、絵本を買ったのでしょう。繰り返し繰り返し読みましたが、私が気に入っていたのはその姉妹のストーリーではなく、妹が草原に身を隠して、ひとりの時間を味わうワンシーンでした。
「いまは、だれも なにも いいません。おひさまの ひかりの なか、のぎくが、ゆらゆらと ゆれています。すぐそばで、おおきなハチが、ブンブンと うたっています。あしもとの くさが くすぐったくても、いもうとは じっとしていました。」
……幼いころ暮らした我が家の周りにも、背の高い草が生えた空き地やうっそうとした雑木林があったので、この感じはよくわかります。周りの自然と溶け合って、自分の輪郭さえも消えてしまったような気がするあのひととき。
自然のなかに出かけると、街とは違うその静けさにいつも驚かされます。でもよく耳を澄ませてみると、実際はたくさんの音があふれていることに気づきます。小さな虫の羽音、遠くの鳥の鳴き声、川のせせらぎ、風に揺れる葉がすれ合う音……それらを耳にするうち、自然のなかでは自分の心こそが、静けさに包まれているのだと知るのです。
ガチャガチャと複雑でうるさく感じられる街の音ですが、音域でいうと自然のなかのほうがずっと幅広く、さまざまな種類の音が存在しているのだそう。さらに人工の音とは違う「ゆらぎ」があります。自然の音による刺激はそれゆえ心地よく、リラックスにつながるのだといいます。
自然の音で解きほぐされたとき、自分の内に浮かぶのは柔らかな本心です。絵本のなかで、草原に寝転んだ妹は、家を出る前に姉が用意してくれていたレモネードとクッキーのことを考えます。それから姉が読んでくれるはずだった本のことも。離れたくて出かけたのに、姉のことを思う妹。今度山へ行ったとき、私の心には何が浮かぶでしょうか。できれば歩くのも止めて心の静けさに浸り、その声に耳を傾けてみたいと思います。
ねえさんといもうと
(シャーロット・ゾロトウ:文、酒井駒子:絵・訳/あすなろ書房)
昔読んでいたのは福音館のもの、こちらは2 年前に出された日本オリジナル版。旧版と共通したピンクの表紙を久しぶりに本屋で見かけ、姉と並んで眠ったころを思い出しました。
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
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テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』