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「だから、私は山へ行く」#12柏澄子さん

子どものころから山好き。学生時代は山岳部で、ヒマラヤにも登った。そんな柏澄子さんは、登山を専門にするライターにして登山ガイド。彼女はなぜ文章を書き、人を山に誘うのだろうか。その原点に迫る。

「だから、私は山へ行く」
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いまに至る原点は大学山岳部時代にある

山岳ライターとして知られる柏澄子さんは、同時に登山ガイドでもある。山好きになったのは小学生のときに富士山に登ってからで、以来柏さんのなかにはいつも山があった。

中学時代は吹奏楽部でフルートを吹きながら、エルゾークの「処女峰アンナプルナ」を読んでヒマラヤの高峰に思いを巡らせ、高校は山岳部のある学校を自ら選んで受験。大学に進学してからは、当たり前のように山岳部に入部した。

当時は’80年代中盤のバブル好景気真っ直中で、大学のクラブ活動といえば、いわゆる「夏はテニスで冬はスキー」という華やかなサークルが人気だった時代だ。それでも大学山岳部は意外と地味に健在で、柏さんが入部した獨協大学山岳部でも、各学年には男子に混じって女子部員もつねに一定数いたそうだ。

夏でも冬でも揃ってジャージをはいて、4、5人用のドームテントにみんなで寝泊まりしながら山に登った。女性だけのテントという概念がないことにだれも疑問を抱かず、長期縦走でも着替えは持たないのが普通だった。登山は3K、つまりキツイ、キタナイ、キケンと呼ばれた時代。だが、そんなことは気にもかけず、山に登らずにはいられない男女が山岳部には集まっていた。柏さんもそんなひとりだ。

山岳部に入ってからの柏さんは、ひたすら本格的な登山に没頭する。高校時代からの縦走に加えて、バリエーションルートや岩壁登攀、厳冬期の山にも取り組んだ。そこまでフルに活動したのは、女子では柏さんひとりだったという。

「でもね、私にそれだけの実力があったということではなく、たまたま同期にそこまでやる女性がいなかっただけの話。私は岩登りや冬山がやりたくて入部したのですからね」

どこからどう見ても、根っから山が好き。

そんな柏さんがライターになる原点もこのころにあった。子どものころから書くことが好きだった柏さんが、なにかを書きたい、と初めて本気で思ったのは、何度も山行を繰り返した白神山地に林道計画があると知ったときだったという。後に白紙撤回される青秋林道である。

「白神山地は山が幾重にも重なって、私たちがいることすら違和感を覚えるような、絶対的な自然の感覚に包まれる場所でした。そこに林道を通す計画があると知って、まるで自分の肉体がえぐられるような痛みを覚えました。それを書きたい。心からそう思ったんです」

柏さんがライターとして独立したのは、それから何年か経った後だが、以後も「書きたい」と思える大事な題材に何度も出会っている。たとえばそれは登山家だったりチベット問題だったりガイドだったり、いずれも柏さん自身が自分の登山を通じて得た、リアルな自らの関心事だ。

柏さんはそれを仕事のモチベーションにしつつも、取材を通して出会った山や人を通じて、さらに自身の活動の世界を広げてきた。登山ガイドもそのひとつだ。

登山を専門としたライターということで、講師としての仕事と実際の山に連れていく機会が多くなったことから、資格取得の必要性を感じたことがその理由だという。プロのガイドが原稿を書くことは珍しくないが、プロのライターがガイドになった例は、柏さんのほかに知らない。

ほかにも柏さんは生前の田部井淳子さんと組んで若い女性を山に誘う「MJリンク」や、女性ガン患者の登山体験をサポートするNPO法人「フロントランナーズクライマーズクラブ」といった社会活動に近い取り組みにも積極的に参画し、最近では感染拡大を防ぎながらコロナ禍の登山を楽しむための「teamKOI」を立ち上げている。

「長く取材や仕事を続けてきたなかで出会ったことで、これはやったほうがいいなと思ったから取り組んできたこと。その積み重ねです。楽しいと言うと語弊はあるけれど、やり甲斐あることが多かったかな。山登りといっしょです」

柏さんはそうしたさまざまな活動とライター仕事に境界を引いていないようにみえる。なにかに価値を感じて向き合って、アウトプットして人に伝える。それは「書きたいことを書く」ことに等しいからだ。

「それでも、以前、登山業界の大先輩にいただいたアドバイスが心に残っています。『書く仕事に軸足を置きなさい。そのほうがより多くの人に伝えることができるのだから』と。なるほどなって思いましたね。まだまだ書きたいことはいくつもありますし、体力の衰えを考えに入れると、いずれもっと書くことに集中すべきだと、いまは思っています」

最近、柏さんは実家から出てきた10代のころの古い写真を見て、山ではいつも笑顔で写っている自分に気づいてちょっと安心したという。

「あ、そうか。私って、ほんとに小さいころから山登りが好きだったんだな。よかったなって」

長い年月に美化された記憶ではなかったことを再確認したというが、そんな心配はまったく無用に思える。どこからどう見ても、根っから山が好き。柏さんを知るだれもがそう思っているに違いないのだから。

 

柏澄子さん
ライター。学生時代から本格的な登山に取り組み、複数回のヒマラヤ遠征経験もある。登山家や山岳医療を含めた登山全般をテーマに執筆を続けて著書多数。日本山岳会常務理事。日本登山医学会会員。JMGA認定登山ガイドステージII

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(出典/「ランドネ 2021年9月号 No.119」)

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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