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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#19 クリスマス・イブ

山小屋でもテントでも、山でお泊まりするとなったら楽しみなのは、夜の時間です。日帰りでは見られない夜空や、山の静けさを味わいたい! なんて意気込むのですが、いざ屋根と壁のあるところへ落ち着いてしまうと、途端に外に出るのが億劫になるんですよね。寒いしな、靴履くのもな、と迷ううちに消灯時間になっちゃったりして。ちょっとお行儀は悪いですが、おすすめなのは外で歯を磨くこと。どうせ数分手を動かすなら、星を眺めながら、いい空気に包まれながら。ある程度必要な時間が決まっていることが、腰を上げやすくしてくれるポイントかもしれません。

歯ブラシを持って外に出てみると、やはり夜は特別、といつも思います。人工的な明かりのほとんどない暗闇。歯を磨きながら平静を装いますが、見上げる星空が美しいほど、ちっぽけな自分はあっという間に輪郭が解けてなくなりそうな心許なさを感じます。そんなとき近くに別の登山者がいると、仲間を得たようで少しホッとします。

「寒いですね」なんて言葉を交わすこともありますが、たいていは無言です。でもきっとだれもが感じるこの夜の特別感を分かち合っている、飲み込まれそうな存在感にともに向き合っている、そんな気がするのです。

ヘッドライトで照らすと、景色の印象もまた変わる。光の円のなかで力強さをみなぎらせていたハイマツ の葉。夜露がきらめきを添えて息を呑むほど美しかった。昼間の私は何を見ていたんだろうと思う

「クリスマス・イブ」は、クリスマスの前の夜に眠れなくなった子どもたちが、ベッドから抜け出してツリーを触りに行くという小さな冒険をするようすを描いています。お父さんやお母さんを起こさないように息をひそめて、ギイと鳴る階段に驚いたりしながら居間を目指します。

自宅の暗闇にドキドキする歳ではありませんが、山ならばそれは私にとってもたしかに冒険です。たとえばみんなが寝静まってから、ちょっと水場まで行きたくなったとき。明るいうちに見ていたはずの景色が、初めて見るかのように目に飛び込んできます。絵本のなかで子どもたちを迎えるのは、モミの木やプレゼントの包み紙のにおい、暖炉の残り火に照らされた色とりどりのツリーの飾り。子どもたちは寄り添って、声も出さずに立ち尽くします。クリスマスは特別です。静けさと暗闇が広がる夜というときが、その純度をさらに高めて教えてくれます。

山の夜、私を圧倒するのはなんだろうと改めて考えます。それはやっぱり、山や自然というものの、存在そのものじゃないかしら。歯ブラシ片手じゃなく正面から、次回は向き合って感じてみようと思います。

 

 

クリスマス・イブ
(マーガレット・W・ブラウン 文、ベニ・モントレソール 絵、矢川澄子 訳/ほるぷ出版)
「みんな わかっていたのです。でも だまっていたのです。みうごきもしなかったのです。」……子どもたちが聖なるクリスマスに包まれたシーンに添えられた文がお気に入り

 

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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仲川 希良

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仲川 希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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