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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#21 てぶくろ

山での落としものは
動物からどう見えている?

本来、山には何も残してはいけないものですが、ウッカリとか不可抗力で、登山者が落しものをしてしまうことがありますね。風に飛ばされた帽子、剥がれた靴底、意外とよく見るサングラス。休憩した跡がある雪面にピッケルが残されていたときは、さすがに持ち主のその後を案じてしまいました。

私もトレッキングポールの先につけるカバーを落としてしまったことがありますが、同行のガイドさんの「ポールのカバーは天下の回りもの」という言葉通り、偶然すぐに別の方の落としたカバーを見つけ、ありがたくつけて帰った思い出があります。

山の落としものは、たいていきっとそのままでしょう。山道は戻りづらい。とはいえ落とし主が戻ってこないとも限らない。近くの山小屋などに託すこともありますが、少し目立つ場所に置き直すのがせいぜいです。汚れたり壊れたり、たとえ半分土に埋まっていても、人間の落としものは山の景色になじまず、いつも違和感を持って目に飛び込んできます。

▲こちらは動物の落としもの。ラップランドの原生林を歩いていたときに目を奪われた白い毛束は、おそらくクマに襲われたトナカイのもの。クマが立ち去った方向に点々と毛皮が残されていた

ウクライナ民話「てぶくろ」では、雪の森を歩くおじいさんが手袋を片方落としてしまうところから物語が始まります。空はどんより鈍色、夕暮れの地平線ににじむ赤がいままさに飲み込まれるところ。舞い散る粉雪があまりに寒そうで、足速に去ったであろうおじいさんの姿が想像できます。

薄暗い雪景色のなか取り残された革のミトンはぼってりと分厚く、見るからに暖かそうです。そこに小さなネズミが駆けてきて「ここでくらすことにするわ」と手袋に潜り込みます。するとカエルにウサギと次々動物がやってきて、手袋の中へ。そりゃ寒空の下こんなすてきな手袋があったら私が動物でも入りたくなるでしょうけれど、なんと最後はクマまでぎゅうぎゅう詰めに!

やがて手袋を探しに戻ってきたおじいさんの気配に気づいた動物たちは、散り散りに逃げ出します。手袋は何事もなかったかのようにやはりぼってりと横たわっていますが、1ページ前までの大騒ぎを知っている身としては、その中に残っているであろう温もりを、拾い上げて確かめたくなります。

実際の山の落としものは、どうでしょう。動物はどう見ているのかしら。ひさしぶりに絵本を開いてそんなことを思っていたら、友人のSNSにちょうど、人間が落とした手袋で上手に遊ぶキタキツネの動画が上がっていて、笑ってしまいました。

今回の絵本は……

てぶくろ
(エウゲーニー・M・ラチョフ 絵、内田莉莎子 訳/福音館書店)

絵本を読んだ小学生当時、使っていた手袋と挿絵のものがそっくりで、もしここに動物が入ったら……とドキドキした。雪景色のなか動物たちがまとう民族衣装がかわいい

 

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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仲川 希良

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テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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