高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の 「ヤマノハナ手帖」#8 ミズバショウ
ランドネ 編集部
- 2022年03月16日
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
道端でちらほらと花が咲き始め、わがスイート賃貸ホームのある中山間地域でもウメが開花し、最高気温は20℃に。少し汗ばむ小春日和を満喫しつつも、「今年最初の真夏日になるでしょう」という天気予報にブチ切れる日が近いことを感じます(笑)。さて、そんな短い春をめいっぱい楽しむ山をセレクトするなら、皆さんはどこに行きますか?ワタシならダントツ湿地のある山、たとえば尾瀬や栂池をチョイス!そう、今回ご紹介するのは山の早春を彩る花、ミズバショウです!!
Index
じつは日本でいちばん有名な高山植物?
ミズバショウ(サトイモ科)
一般的な花期:5月~6月
主な生育場所:山地の湿地
〽夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空(中略)水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている水のほとり…(『夏の思い出』)
「ミズバショウの話だからって、まぁた、こんな化石ソングを発掘してきて…」。そんな読者のココロのつぶやきが聞こえてきそう(えらいスンマセン)。
でも、じつは爆裂ヒットしたこの歌がきっかけで、尾瀬に年間42万人ものハイカーが訪れたって知ってました!?
たとえば富山市の人口がほぼ同じなので、1年間で富山市民全員が尾瀬に来たってことですよ!これ、ある意味では高山植物界における快挙ではないでしょうか!?(同時に狂信的&ややオゾマシイですが)。
見た目とは裏腹に、クサイんです
ミズバショウは、白い花びらに見える「ほう(仏炎苞)」に包まれた花が特徴的。しかも、雪解けのあとに群れ咲くのが人気の秘密です。
ただ、ミズバショウ属の英名はskunk cabbages=くっさいキャベツ。個人的には「そこまでクサくねえ!ちょっと独特なだけじゃん!」と擁護したいけども、しかたない。きっと、命名者がこの花をクンクンと嗅ぎ回った(?)結果、カワイソウな英語名がついてしまったんでしょう…。
オスからメスへ…
なぜ、ミズバショウはクサイんでしょう。
じつはこれ、雪が残る寒い季節に受粉をしてくれるのが、主にハエだから。悪臭を出してでも、彼らを呼び寄せないといけないんです!
写真のように、同じ種類の花ばかりを一途に訪れてくれるマルハナバチが来てくれれば、もうサイコー。黄色い花粉をハチに預け、受粉にいそしみます。
ただ、気になるのはその不可思議なギミック。雄しべは花粉を出し尽くすと雌しべ化し、タネづくりに転じます。そのあまりに柔軟な発想(!?)には、みんながビックリ!
タネを広げるのは水とクマ!
花が終わったあとに残されるのは、清楚な花から一転、カメノコダワシ(ヤングコーンともいう)のような実。ここについたブツブツ一つひとつがタネになります。
熟したタネは沢筋に流れて広がるのがキホンですが、冬眠明けのクマに食べられることも。弱毒性のこの実を食べて、クマは冬眠中に貯めたウ●チを出すといわれています。
ちなみに、かなりどーでもいい情報ですがタネの総数は最大700個ほどです。若かりし頃にどうしても知りたくなって、つい数えちゃいました(もちろん、採取可能なところでです)。…昔のワタシはまあまあヘンタイ、今はまっとうなヒトです。信じて~!!(笑)
「バショウ」は葉っぱのことなんです
花が終わっても、ミズバショウの勢いは止まりません。「ここからが本番」とばかりに葉っぱをめちゃめちゃ巨大化させ、そこかしこからバリバリはみ出します。
ときに人の腰丈ほどまで伸びるこの葉っぱを「芭蕉(バナナの仲間)」に例えたから、「水芭蕉」なんですね~。
ちなみにこの葉っぱについては、ツキノワグマが食べるという専門家の報告が。クマさんにとってミズバショウは不可欠なパートナーといえそうです。
お土産にミズバショウいらんかえ~
そんなミズバショウの魅力をさらに広めたいと思ったのか?(はたまた、ただ儲けたいと思ったのか?)…ある年の尾瀬山麓では、期間限定でミズバショウの鉢植えが売られていました!!おネダンは、ひとつ1,500円なり。
よく見ると、左側にスペースがあるので、実は結構人気だったかも。でも、タネはどこから採って来たんだろう…そして、登山者がわざわざ鉢植えをクルマに積んで帰るものだろうか。タネがタダなら鉢代がかかるだけで儲かったんじゃ…ああ~、邪推が止まりません~!!
さて、今回はややおとなしめ&正統派な調子(?)に戻してお送りしてきたミズバショウのオハナシ。いかがでしたか?ちなみに、雄しべから雌しべへの変更は、私たちニンゲンにとってはかなり不可思議ですが、植物界では珍しくありません。また、植物だけでなく魚類にも性転換するものがおり、ときにメスだけで繁殖できるというものも。自然界、おそるべしですね…。
それでは、また。皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
花ライター/会社員
成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです~!(笑)
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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