モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#26 ペレのあたらしいふく
仲川 希良
- 2022年08月10日
いま着ているこの服は
どこでどう作られているのか?
アウトドアウエアに助けられながら山に向かい続けて10年以上。そのあいだ、ウエアのさまざまな進化を感じてきました。ストレッチ性が加わり動きやすくなったナイロンのレインウエア、コットンのような肌ざわりのポリエステルのTシャツ。安全なうえに着心地のよいアウトドアウエアを、いまでは日常でも身に付けています。と同時に年々頻繁に耳にするのは、アパレル業界の環境汚染の話題です。繊維の生産、染色、洗浄、あらゆる生産過程で大量の水を使い、汚し、大量のエネルギーを必要とするのだそう。さらに残念ながら、アウトドアウエアのメインである合成繊維は、より環境への負荷が高いものです。
手に入れたアウトドアウエアに身を包み、山を味わい、そこから生まれる水の美しさを堪能する。山から里、海へと続く自然のつながりに思いを馳せながら帰宅する。そして汚れたウエアを洗濯すると……我が家の洗濯機からはマイクロプラスチックが海へ……? ウエアの力を借りて楽しんだ自然を、ウエアを買うことでも着ることでも壊すだなんて。自分の抱える矛盾が、気になってきてしまいました。
「ペレのあたらしいふく」は、服が小さくなった少年ペレが、新しい服を手にするまでを描いたお話です。自分で世話をした子羊の毛を刈り、おばあちゃんに梳いてもらいにいくペレ。おばあちゃんは快諾し、そのあいだの草むしりをペレに頼みます。梳いた毛をもうひとりのおばあちゃんが糸紡ぎ。ペレはおばあちゃんの牛の番。染めたり、織ったり、みんなの手で羊毛が服へとなるあいだ、ペレは代わりにお使いに出たり薪を運んだりします。出来上がった服をまとったペレのなんと誇らしげなこと。ペレはその姿を一番に子羊に見せ、「あたらしいふくをありがとう!」と言うのです。
こんな服作りをいまの私がするのはほとんど不可能です。でも、自分が身につけるものにどんな過程があり、そこに正しい対価を払えているか。なにかの犠牲の上に成り立っていないか。せめて意識していたい。幸いアウトドアウエアは長持ちします。環境に配慮した生産活動を行なうメーカーも増えています。自分も含め完璧な人やメーカーはいない。一つひとつの活動に目を向け、本当に必要な進化に対しては正しくお金を使う。守り、共存すべき自然の真の価値を体感するためにも、山に行くことはやめたくないのです。
今回の絵本は……
ペレのあたらしいふく
作絵 エルサ・ベスコフ
訳 小野寺百合子
福音館書店
終わりにはすっかり見違えるペレの出で立ち。でもじつは帽子は初めと変わっていないところもグッとくる。私にも山に登り始めた当初から気に入って使い続けている帽子がある
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は13 年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
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モデル/フィールドナビゲーター
仲川 希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』