モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#27 ことり
仲川 希良
- 2022年09月07日
一瞬の出会いを追い求める
バードウォッチング
初めて本格的な山に登ったとき、樹林帯に入った途端鳥の声に包まれて、「鳥たちが歓迎してくれている!」なんてはしゃいでいた私たち。
同行のガイドさんに「いえ、これは鳥が警戒しているときの声ですね」と諭され、自分勝手な解釈をしたことに苦笑い。そして、そういえば鳥のことをまったく知らないなと気付きました。
自然のなかで過ごしていると鳥の声はよく耳にするものですが、私はいまだに鳴き声だけではどんな姿をしているのかわかりません。いくらでも愛でさせてくれる草花や、ゆっくり動く虫と違って、木々に隠れ、すばしっこく飛び回る鳥を観察するのは一苦労。とくに登山中は自分自身も移動を続けていることが多いですから、鳥との出会いは偶然によるものがほとんどで、さらにその姿をじっくり眺める機会などなかなかないのです。
その地域特有の鳥を目的に山へ行ったこともあります。残雪の立山室堂でライチョウを探したときは、ハイマツの下を何度も何度も覗き込んでは歩き回り、その姿を探しました。カエルによく似ている鳴き声はそこら中に響き渡っているというのに、ついに一度も見ることは出来ませんでした。
鳥海山山麓に生息するイヌワシは、絶滅が危惧されるとても貴重な鳥。観測ポイントに小一時間ジッとしてみましたが、こちらも出会えず。同じくイヌワシを目当てにいらしていたおじさまは見たことのないほど長いレンズのついたカメラを携え、半日でも一日でもそこで待つというのですから、鳥を見るというのは本当に難しいなあとため息が出てしまいました。
絵本「ことり」は、文字のないページをシジュウカラが飛び回ります。木のウロに巣を作り、卵を抱え、産まれた雛たちが巣立ちのときを迎える。生い茂る葉に隠れて繰り広げられている小鳥の生活を、定点観測出来る絵本です。
絵本だからじっくり見られるぞと思いきや、トレーシングペーパーのように透ける紙を使った演出で、小鳥はパタパタと画面を出たり入ったり。それにつられるようにもっと見たい、ちゃんと見たい、とページを繰るうちに、自然界で目にするときと同じように軽やかな風を残して、あっという間に飛び立っていってしまうのです。
今回の絵本は……
ことり
新宮晋
文化出版局
著者は風や水で動く造形作品で知られるアーティスト。小鳥が生み出す目には見えないはずの軽やかな気配が視覚化された、美しいデザインの一冊
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は13 年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
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モデル/フィールドナビゲーター
仲川 希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』