モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#28 はるとあき
仲川 希良
- 2022年10月07日
出会うことのないふたりに
四季の美しさを思い起こす
いつのころからか、四季のなかでは春と秋の気が合うだろうなとぼんやり思っていました。暑くもなく寒くもない、柔らかな空気。どんどん芽吹いたり、どんどん色付いたり、次の季節に向けて日一日と植物のようすが変わる、流れるような美しさ。なんだか似ているところがあります。動の力に満ち溢れたスカっとした夏や、静の力が支配するキリッとした冬とはちがう、控えめなやさしさが、春と秋にはあると思うのです。
とはいえそれ以上のキャラクターを季節にもたせて考えていたわけではなかったので、この本を開いて春と秋がだいたんにも擬人化されたビジュアルをもち、さらには手紙のやり取りまでするという設定には驚いてしまいました。
それぞれの季節は、自分の時季がくると目を覚まし、次の季節に交代すると眠りにつきます。季節の変わりめというのは実際はグラデーションで、寄せて返す波のように次の気配がじわじわとやってきますが、それでもある日、「あ、季節が変わった」とはっきり思うときが来るものです。あの瞬間にきっと新しい季節が大きく伸びをして、前の季節はうとうととまどろみだすのでしょう。
▲8月末の北八ヶ岳、シラビソの枝にそっと落ちてきた色づいたモミジにもう秋の気配。そのうちこの枝先まで真っ白な雪に覆われる冬がくる。山は春から秋の移り変わりが早く、より鮮やか
ある年眠りにつこうとした春は、秋がくるまでがんばるぞと夏が言うのを聞いて、秋に会ったことがないと気づきます。そして手紙を書こうと思いつきます。「はじめまして げんきですか これは さくらのはな はるのはな あきは どんな はなが さくのかな」。夏が預かった手紙を受け取った秋は、喜んで春にお返事を書き、冬に預けます。「これは こすもす あきの はな あきの さくらと いわれてるけど はるの てがみで はじめて さくらを しったよ」。
一年に一度春と秋は思いやりある手紙をやり取りし、そして私の空想どおり、ふたつの季節は仲良くなっていきます。たがいの季節の自慢のごちそう、美しい景色、同じ植物でも春と秋で違った姿になることだって、ふたりは手紙を通してはじめて知るのです。
「はると おてがみ することで じぶんにも いいところが あるって きづけたよ」と伝える秋。けっして会うことがない季節同士なのに「いつか おあいできる ことを」と繰り返される手紙の結びを読むたびに、ちょっと切なくなりながら、私という人間はこの四季が移ろう美しさをどれも存分に味わえるのだなと、そのことを改めてとても幸せに思うのでした。
今回の絵本は……
はるとあき
作 斉藤 倫、うきまる
絵 吉田尚令
小学館
季節の移ろいや手紙を書くという行為の美しさ、一年に一度という緩やかなテンポのもつ優しさ。忙しない日々では忘れがちなことを穏やかな絵と文が思い出させてくれる
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は13 年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
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モデル/フィールドナビゲーター
仲川 希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』