ミツバチたちのいきいきとした
自然の営みに思いを馳せて
はちみつは、私のお気に入りの山旅土産です。もともとは登山後に立ち寄るふもとの道の駅で、採れたての新鮮な農作物や、地元の方が昔からおやつにしてきたような手作りお菓子を探すのを楽しみにしていました。道の駅に並ぶものの多くは、歩かせてもらった山、それがある土地の、自然の恵み。帰宅してからもそれらをいただくたびに、山旅を味わい直せるような時間が生まれます。帰宅翌日の朝ごはんから活躍するジャムやはちみつも、地元の素材を使っていてお安かったり、広くは流通しない珍しさもあって、いっしょに手に取るようになりました。
そのうちなにかで、ミツバチは巣箱から半径2~3㎞しか飛ばないことを知りました。いつもパッケージを眺めながら、蜜源となる植物をどうして特定できるのかしらと不思議に思っていましたが、それなら納得です。蜜を採取する直前に、巣箱の近くで咲いている花々に限定されるわけですから。その土地にそのとき咲いていた花の蜜が、ミツバチを通してはちみつとなる。まさに土地の自然を凝縮した味なのだなと、改めて感心しました。
今回の一冊は、ミツバチの生態を分かりやすく表現した学習絵本です。養蜂を営む友人からいただきました。美しい花々の間を飛び回るかわいい姿。蜜を吸ってお腹いっぱい巣に戻った働きバチは、別の働きバチに向けてダンスをします……と聞くといかにもメルヘンですが、これすべて実態にもとづいているのだそう。ミツバチは蜜源の方向と距離を、ダンスで仲間に教え合うんですって! ミツバチはそんなとても高度な知性に加え、なんと敵に襲われたあとはしばらく落ち込むといった、感性までもっているんだそう。ミツバチの知識が増えるにつれ、いままでは無条件に肩をすくめていた「ブーン」という羽音も、すっかり愛おしく思えてきました。
そういったミツバチたちの特性を知ったうえで、その暮らしを助け、貴重な蜜をもらっているのが養蜂家のみなさん。ミツバチと人とを繋ぐお仕事はなかなか重労働のようで、登山家のエドモンド・ヒラリーは養蜂業を通して、足腰や心肺機能が鍛えられたと語っています。彼がエベレストに人類初登頂したときも、吸収されやすく良質な栄養源であるはちみつを食べていたという逸話まであると聞くと、やっぱりはちみつは山旅土産にピッタリなもののようです。
じつは現在ミツバチは世界的に激減しています。この本のあとがきには「絶滅が心配されている世界の美しい生き物たちを愛し、大事にしているみんなのための本です」という言葉とともに、ミツバチが生き延びるために私たちができるアクションについても書き添えられています。あなたもまずはこの本を通して、ミツバチを知ることから始めませんか?
今回の絵本は……
ミツバチたち
文 カーステン・ホール
絵 イザベル・アルスノー
訳 青山 南
科学同人
ミツバチの羽音や動きが思い出されるような、パワフルでリズミカルな翻訳。元気が湧いてくるので、声を出して読むのがオススメ。どのページもポストカードにしたいかわいさ!
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は14年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』