フォアフット着地って知ってる?効率のよい走り方でスピードアップ&トラブルフリーランを実現!
- 2021年03月07日
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速くなれる、ケガのリスクが減らせる!いいことだらけの「フォアフット着地」
ランニングを始めた頃は、速く走ることにこだわっていなかったのに、いざ距離が走れるようになってくると、「速く走れるようになりたい」という欲が出てくるものです。しかし、スピードアップを果たすということは至難の業。いくらトレーニングを続けても速くなれないとイライラしている人も多いのでは?その原因は着地方法にあるのです。
では、速く走るにはどう着地をすればいいでしょうか?答えは『フォアフット着地』です。実際、この着地方法は、世界のトップランナーたちの主流となりつつあります。ここでよく話題になるのが、フォアフット着地は日本人には合わないためケガをしやすいということです。しかし近年では、この考え方に異を唱える研究者も多くなっています。逆に、正しくフォアフットで着地して走ることができれば、スピードアップが図れるだけではなく、ケガのリスクも低下させられるといわれています。
フォアフット着地とは
まずはフォアフット着地とはどのような着地方法なのかを具体的にご紹介していきましょう。着地方法は、ヒールストライク着地(カカト着地)、ミッドフット着地、フォアフット着地の3種類に大別されます。
前足部で着地をすることでバネのような”弾む走り”ができる!
今回フォーカスするフォアフット着地とは、足裏の前側(前足部)で着地をする走法です。ただし、「前足部だけで着地し、カカト部分を地面につけずに前に進んでいく着地法」と勘違いしている人が多いようですが、実際は、前足部で着地した後、カカトを一瞬地面につけてから蹴り出しに至る走り方です。
ほかの着地法と異なる点は、カカトが地面についてから、蹴り出すときに「地面を足裏で掻く動き」をしないことです。少し難しいかもしれませんが、カカトから着地する場合は、地面を蹴り出すときに体を前に押し出すために足首を底屈(足首の関節を足の裏の方向に折り曲げる)させて、足裏で地面を強く掻くような動作をしなくてはなりません。そのため、脚全体に大きな負荷がかかり、さらに地面を掻くときにブレーキがかかってしまうため、スピードが出しにくくなってしまうのです。
いっぽうフォアフットで着地をすると、足首の角度をほぼ固定したままとなるため地面を掻くことなく、バネのようにピョンピョンと弾むように地面からの反発力を使って体を前に出すことができるのです。具体的には、アキレス腱が足のバネの役割を果たし、そのバネが進行方向に向かって体を押し出すようなイメージです。そのため、ブレーキもかからないため、自然とスピードもアップしていくというしくみです。さらに、掻く動作が少ないぶん脚への負担も少なく、ケガのリスクも減らせるということも大きなメリットです。
3種類の着地法のメリットデメリット
◆フォアフット着地
カカトが接地するよりも先に、前足部(足裏の1/3ほど前方の位置)が地面に接する着地法です。
◎メリット
脚への負荷が低く、筋疲労しにくい
地面反力を使いやすい
着地時にブレーキがかかりにくい
ケガのリスクが低い
×デメリット
アキレス腱やふくらはぎへの負荷が大きい
習得に時間がかかる
◆ミッドフット着地
足裏全体で着地をする着地法です。フラット着地走法とも呼ばれています。横から見ると、着地時に足裏と地面が平行になります。
◎メリット
脚への衝撃が小さい
着地時にブレーキがかかりにくい
×デメリット
習得に時間がかかる
アキレス腱やふくらはぎへの負荷が大きい
◆ヒールストライク着地
カカトから接地する着地法です。リアフット走法とも呼ばれています。日本のランナーでもっとも多い走り方といわれています。
◎メリット
無理なく自然と走ることができる
ふくらはぎやアキレス腱への負担が少ない
筋力が弱いビギナーでも取り組みやすい
ふくらはぎやアキレス腱への負担が少ない
×デメリット
着地時にブレーキがかかってしまう
地面からの衝撃が大きい
ヒザや腰への負担が大きい
ケガのリスクが高い
“なんちゃってフォアフット”には要注意!間違ったフォアフットでケガのリスクが増大する!?
じつはフォアフット着地は諸刃の剣なのです。前述のとおり、フォアフット着地はほかの着地と比べて基本的には脚への負担が少ない着地法です。その理由は、接地時の衝撃を足裏のアーチやアキレス腱、腓腹筋(ふくらはぎ)の筋肉などで吸収できるからです。ただし、正しく着地ができていないと足の甲にある中足骨への負荷が高まり、疲労骨折を起こすこともあります。また、スネへの負担も大きくなることで、俗に言う「弁慶の泣きどころ」あたりに痛みが発生する「シンスプリント」というケガに見舞われるリスクも高まります。
「ケガをしやすい」と言われることが多いフォアフットですが、正しくは、正しいフォアフットができていないからケガをしてしまうのです。「フォアフットにしたらケガをした」という人の多くは、フォアフット着地をしているつもりでじつはできていない“なんちゃってフォアフット”の可能性が高いのです。
また、本来はケガのリスクが少ないフォアフット着地ですが、脚の筋力をつけることが非常に重要であることは覚えておきましょう。たとえ正しい着地ができたとしても、衝撃を吸収する役割を果たす「ふくらはぎ」とバネの役割を果たす「アキレス腱」には負荷がかかるため、それに耐えうる筋力が必要となるからです。
「かけっこトレーニング」で、フォアフット着地が自然と身につく
では、“なんちゃってフォアフット”を修正するためのトレーニングをご紹介しましょう。おすすめは、ウィンドスプリントです。これは、全力の70~80%のスピードで100m程度を走るトレーニングです。
じつは、速いスピードで走ると自然に着地はフォアフットとなるのです。100mの選手たちの走りをスローで見ればわかりますが、彼らは全員がフォアフット着地で走っています。カカト着地で速く走れている選手は皆無なのです。つまり、全力に近いスピードで走ることを繰り返せば、自然とフォアフット着地ができるようになるということです。
とはいえ、70~80%の力で走るという感覚はなかなかつかみずらいですよね……。そんな人は、子どものときの「かけっこ」をイメージして走りましょう。1回2~3本でもいいのでかけっこをトレーニングにとり入れてください。繰り返すことで、自然と正しいフォアフット着地を体得できます。
ただし、下肢の筋力が不十分であると肉離れなどの危険があるため、ランニングビギナーの人は、スタートから全力ではなく、徐々にスピードを上げていくようにしましょう。また、止まるときにも急に止まるのは大きなケガにつながります。そのため、徐々に減速をしていくことも心がけてください。
股関節を大きく動かすことを意識して走ろう
正しくフォアフット着地をするうえで必要なのは、ストライドを大きくすることです。では、ストライドを大きくするためにはどうしたらいいのでしょうか?ポイントは、「股関節を大きく開いて走ることを意識すること」です。そして、股関節の可動域を広げ、大きく動かせるようにするには、その周辺につく筋肉を鍛えることが必要となります。
長距離走は長時間にわたり股関節を大きく開いて走り続けなくてはならないため、それ相応の筋力が必要になるためです。
筋肉をつけるには、ジムなどで筋トレを行うことも効果的ですが、筋トレが苦手という人におすすめしたいのが、上り坂と下り坂を走ることです。いつものランニングコースのなかに上り坂と下り坂をとり入れることで自然と筋力をアップさせることが可能となります。
加えて、ウォーキング、ジョグ、ランニング、全力走のすべてのスピード域においてストライドを大きくすることを意識して走るようにしましょう。これを反復することで、ストライドを広げて長距離を走るに足る筋力がついてくるはずです。
<監修>
桜井智野風(さくらいとものぶ)
桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 研究科長 教授、スポーツ健康政策学部 スポーツテクノロジー学科教授、運動生理学博士。横浜国立大学時代は、十種競技の選手とししても活躍。現在は、大学で教鞭をとるかたわら、日本陸上競技連盟の普及育成部委員としてジュニア世代の指導者育成にためのプログラム作りに関与している。エイ出版社より、「不調の原因を解消する本」、「走りのサイエンス」、「不調を治す50の習慣」を刊行している。
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