高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の「ヤマノハナ手帖」#11 マルバダケブキ
ランドネ 編集部
- 2022年06月16日
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
「梅雨入りです」。聞き慣れたニュースに踊る梅雨の二文字を、世間様はどう受け止めるでしょう?ジメジメ、ムシムシ、イライラ。たぶんこの三拍子ですよね~!でも、山の花好きはひと味違う。やれワタスゲの真っ白な穂が揺れる季節だ、やれオヤマノエンドウやツクモグサの開花だとフェスティバル。そう、じつは梅雨って花の本格シーズンなんです!!さあ、山だ!そう言いたいが、ギックリ腰の余波が呪わしい今日このごろ。伊達じゃなかった本厄に、ついにお祓いしてもらったワタクシでした。ということで、盛夏の山で出会えそうないぶし銀が、今回の主役です。
Index
可憐な高山植物のなかでは“肉体派”
Data
マルバダケブキ(キク科)
一般的な花期:7~8月
主な生育場所:山地の林内、湿地
高山植物の女王・コマクサ、ヨーロピアンテイストを感じさせるホソバヒナウスユキソウ(エーデルワイス)、昭和の名ソングに登場するミズバショウ……。そんなタレントたちのなかにあって、あまり名が知られていない脇役、でもなんだかデカイから気になるヒマワリみたいな花……それがマルバダケブキです。漢字で書くと前半の「丸葉」はまあ当たり前でしょうが、モンダイは後半。「岳蕗」です。だけぶきですよ、ダ・ケ・ブ・キ。思わずリングコール(赤コーナー……ってヤツ)したくなるほどムキムキ感あふれる(!)名前通り、身の丈はおよそ120cm。ちなみにこの数字、内閣府発表の標準身長でいうなれば、小学2年生!肉体派と呼んでもぜんぜん差し支えない、健康優良児なんです。
パクチー臭がぁぁぁぁ……
大きな丸い葉っぱと高身長、さらに8cmにもなろうかというデカイ花。これだけでもずば抜けた自己顕示欲を感じますが、このお花にはさらに大きな特色が。それは、花のニオイ。満開の時期に花畑を訪れると、どこかで嗅いだような、なんか香草っぽいニオイに気づきます。否、香草では響きが良すぎる。そう、パクチー!パクチーなんです!!クセがあるというより、“クセぇ”(※感じ方には個人差があります、笑)。それでも昆虫にはたまらないのか、周囲にはハチの姿が。その蜜集めると、パクチー臭くなっちゃわない!?
食べられる?食べられない!?
目立ちすぎだの、クセぇだのと悪口雑言ばかり申し上げてしまっていますが、そんなマルバダケブキ、フキだけに、やはり「食べられるかどうか??」かどうかが気になるのが人情ってもんでしょう。このギモンについては、「食べられない」または「不食」というのが、正解のようです。そう、全国各地の高山植物を食い荒らしているニホンジカですら、マルバダケブキは食べないそうで。ただこれ、明確に「有毒」と斬り捨てている文献はないので、ビミョウ。親戚にあたる「オタカラコウ」はクスリ臭いけど食用になるそうです(ってことはやっぱりクサそう……)。
ヒミツの花園、じつは試験地
さて、夏の仙丈ヶ岳(馬の背)では、マルバダケブキの圧倒的なお花畑が広がっているんです。なかなかマルバダケブキの花畑は少ないので、貴重!そう思いながらシャッターを切り、後日アレ?と思ったワタシ。写っているのが、バイケイソウ(毒)とマルバダケブキ(不食or毒)ばかり。頭をよぎるのは、見かけたシカ避け柵とイヤな予感……。調べてみると、ナットクしました。ここ、ニホンジカの食害に関する試験地なんだそう。マルバダケブキを除去する/しないのテストを通じて、シナノキンバイなどシカが好む植物が復活するかどうかを調べているのだとか……。あれ、ひょっとして結構、嫌われちゃってる?
高山蝶にとってはアイドルです
シカに、人にはどうやらあまり良く思われていないマルバダケブキですが、ご安心を。先にご紹介したハチのように、昆虫にとってはアイドル同然。こちら、超希少種の高山蝶・クモマベニヒカゲにとっては、マルバダケブキはとってもありがたい存在のよう。蜜は入手できるし、葉っぱの上で日なたぼっこできるし……。そしてなぜかクモマさんたちが留まるのは、葉の「枯れた部分」。黒っぽいから暖かいのか、彼らが欲するミネラルがあるのかはわかりませんが、とにかく枯れ葉がモテモテでした。
最後に花束を!
デカイ、クサイ、シカが嫌う、除去テストしてる……なんか、イイトコなかったですよね、今回。なんか、むしろ醜聞&ゴシップばっかり(笑)。でも、最後の最後に、花束をば。先の除去テストに関連する研究により、マルバダケブキは非常にパワフルな生き物であることがわかったそうです。冬の寒さには弱いので高山には進出できないものの発芽は早く、ガンガン増えていけるそう。だからこんな大群落をつくれるんですね!猛々しい生命力を誇るマルバダケブキ、尾瀬などの湿地にも一部ありますが、もしその力強さを体感するなら、仙丈ヶ岳へ。ぜひ、今夏はパクチー臭を嗅ぎに(目的がオカシイ?)、山に行ってください!
さて、今回フォーカスしてきたマルバダケブキ。いかがでしたか?いささかマイナーキャラではありますが、それだけに大きな群落は少なく、お花畑は必見です。もし大群落を訪れる機会があったら、ぜひニホンジカの存在にも思いを馳せてみてください。きっと、「今、山にいるんだ!」という実感が増してきますよ♪もちろんパクチー臭いのは、ご了承の上でってことで(笑)。
それでは、また。皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
花ライター/会社員
成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです~!(笑)
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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