音が聞こえてきそうなほどの土砂降りが描かれた表紙。ブルーグレーに染まった景色のなかに佇む女の子と男の子。色鮮やかな雨具を身につけ、口角をキュッと上げて笑っています。雨なのに。
「雨、あめ」は、どのシーンも揺るぎなくポジティブです。物語は見返しページから始まっています。2人が楽しそうに遊ぶ庭に、にじり寄る黒い雲。不安的中、次のページからあっという間にすべてが雨に包まれ、ふたりは大急ぎで家のなかへ。そしてレインコートを着て、長靴を履き、なんと再び外へ出かけるのです。雨なのに!
雨が降るとなんとなく嫌だなあと思うようになったのは、いつごろからでしょう。絵本のふたりと同じくらい小さかったときは私だって、雨の日が楽しかったのです。ビーズを繋いだように輝く蜘蛛の巣。ブロック塀を這うカタツムリ。側溝に勢いよく流れ込む泥水や、水たまりに滲むオーロラ色の車のオイルを眺めたり。絵本のなかのふたりも、雨が作り出す一つひとつを存分に楽しみながら散歩を続けます。あのころの私にはお気に入りの雨具がありました。赤に小さなハート模様の傘と、それからやっぱり赤のゴム長靴。雨が降ればそれを身につけられるのもまたうれしかったのです。
山に登るようになって初めて手に入れたレインウェアは、まっピンク。天気の変わりやすい山では、想像以上にこのウェアを着る羽目になることを実感し、明るい、好みの色にして良かったなと、後から思いました。
もちろん山にも、雨の日ならではの魅力があります。ぐっと色濃くなった緑に包まれ、濡れたキノコがつやりと光り、針葉樹の葉先のひとつひとつに宿る雫にうっとりしながら歩く時間。ウエア越しに体を叩く雨粒はたしかな存在感があって、そのうち全身を洗うように雨に打たれていることそのものが、不思議と清々しく、楽しくなってくる……そうだ、小さな頃はこんな感覚だったかもしれません。
絵本の後半、いよいよ視界を遮るほどになった雨のなかを走って、女の子と男の子は再び家に飛び込みます。濡れたものを全部脱ぎ、乾いた服に包まれて、温かいカップを手に外での冒険を語り合う。山小屋にたどり着いたときの安心感を思い出すシーンです。窓から眺める雨は急によそよそしくて、楽しかったけど、綺麗だったけど、明日はやっぱり晴れてほしいな、なんて思うんですよね。
雨、あめ
(ピーター・スピアー・著/評論社)
言葉はない絵だけの絵本。外の雨が暖かさを引き立てる後半の室内や、裏見返しで輝く雨上がりの庭まで、たっぷり雨を感じられる。駆け回る2人のレインウェアの色が印象的
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの11 年目。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に「山でお泊まり手帳」(小社刊)