イラストエッセイスト・松鳥むうの「山のふもとのゲストハウス案内」#10 ゲストハウスシヨウゴロ(東京都神津島)
ランドネ 編集部
- 2022年06月29日
その土地の暮らしに寄り添いながら、訪れた旅人を優しく迎え入れてくれる宿、ゲストハウス。全国各地に点在するゲストハウスを100軒以上訪ねてきた、イラストエッセイストの松鳥むうさんが、山歩きの拠点にもおすすめのゲストハウスを紹介する連載。10軒目は、東京から約180kmの太平洋に浮かぶ伊豆諸島・神津島のゲストハウス「ゲストハウス シヨウゴロ」です。
▲2階には共有スペースとキッチン。このほど良いサイズとスッキリ感が身心になじんで落ち着く
Index
廃業からの再スタートは、海のそばから
東京都の島・伊豆諸島のひとつである神津島。伊豆諸島の神々が集まって水配りをした伝説がある島であり、とにかくキレイで美味しい湧き水があふれ、四季折々の花々が咲き誇る天上山がそびえたつ。その麓には漁師の集落が広がり、港には多くの漁船が並ぶ。
そんな集落の少し端っこにある「ゲストハウス シヨウゴロ」。宿主は、元地域おこし協力隊の小林正吾郎さん。「地域おこし協力隊」というと20~30代前半を想像してしまうが、正吾郎さんが隊員になったのは45歳の時。奥さんの由紀子さんと、当時、高校生と小学生だった息子さんの家族4人で東京都練馬区からやって来た。
▲夜、洗面台のかわいいランプに灯りがともると、ますますかわいく暖かな雰囲気に
45歳で家族もいて、その決断はそれなりに勇気がいったのではないだろうか?だが、「実家の家業が廃業して」と穏やかに話す正吾郎さん。なんでも、ご実家は写真店だったけれど、ご自身には「写真」という仕事があまり向いていなかったそうだ。
20代は、写真店ではなく、ダイビングにとことんハマり、ダイビングショップで働くように。しかも、国内外あちこちのダイビングショップで働いたという。30代のころ、実家に戻り、家業を継いだものの、2014年に廃業。そのとき、海中に浮かぶバブルリングのように、正吾郎さんのなかに浮かびあがった気持ちは「やっぱり、海の近くが好きだなぁ」というコト。神津島と同じ伊豆諸島の島である三宅島のダイビングショップでも働いていた経験があり、神津島の地域おこし協力隊の募集にいきついたのだ。
▲白い紙のカーテンを通して入って来るやわらかい光が気持ちいい
ゆったりとした自分を取り戻しに帰る場所
伊豆諸島の島々には、焼酎の蔵元が多くある。そのなかでも、神津島酒造の「盛若」は特に美味しいと、他の島々にもファンが多い。島内の商店で購入して来た「盛若」を正吾郎さんと由紀子さんに声をかけて一緒に呑んだ。なにかと「ははは!」と和やかに笑って話を聴いてくれる正吾郎さん。島の図書館に勤めていてお話好きの由紀子さん。お二人揃って醸し出すゆったり空気感が、たまらなく心地良く、ついつい手元の酒が進んでしまう。
その日の宿泊者は、私の他にもう一人、島内の高校に離島留学をしている高校生の女の子。彼女もいっしょにテーブルを囲んだ(もちろん、彼女はノンアルコール)。離島留学とは、内地の子供たちが島の学校に通う制度。自宅から通える島では通学も可能だが、神津島は島内の寮に入り学校に通う。彼女は、親がこの制度を見つけてきて勧めてくれたのだという。彼女が年齢以上にしっかりしているからか、私が酔っているからなのか(?)、なんだか次第と同世代と話している感じに。「20歳になったら、シヨウゴロで呑もうね!」なんて、約束をしてみたり(笑)。
▲宿主ご夫妻。左から由紀子さん、正吾郎さん。そして愛猫の「ごま」
宿名の「シヨウゴロ」は伊豆諸島の方言で「塩花」のコト。塩花は、満潮時などに潮が飛び散る様子が花のようであるコトからそう呼ばれている。そして、「塩花」には、もうひとつ意味がある。「嫌なコトがあった時、それを払い祝い直すために塩を撒くコト」。
ちょっぴり気分が下がってしまったら、その時は、また、ふらりと「シヨウゴロ」に帰って来よう。正吾郎さんと由紀子さんの、ゆったりとした空気に包まれに。
ゲストハウス シヨウゴロ
宿泊料金:
・男女混合ドミトリー&女子ドミトリー(素泊まり/12歳以上から利用可)
4,000円/人(平日、4/29~5/5&7/15~9/15以外の期間)
5,000円/人(土日祝、4/29~5/5、7/15~9/15)
・個室(素泊まり、3名まで)
2~3名宿泊
5,000円/大人、2,000円/4~11歳、無料/0~3歳(平日、4/29~5/5&7/15~9/15以外の期間)
6,000円/大人、2,500円/4~11歳、無料/0~3歳(土日祝、4/29~5/5、7/15~9/15)
1名宿泊
7,000円/人(平日、4/29~5/5&7/15~9/15以外の期間)
8,000円/人(土日祝、4/29~5/5、7/15~9/15)
TEL:04992-7-5828
シヨウゴロを拠点に歩きたい、天上山
伊豆七島のひとつである神津島。海のうえからでもわかる、台形状の山が天上山だ。黒島登山口から山頂までは木々のなかに入ることなく、伊豆諸島の青い海と島の街並みを眺めながら登ることができる。時間によっては島に船が入出港するようすも眺められて、島好きにはテンションが上がるひととき。
松鳥むう(まつとり むう)
イラストエッセイスト。離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は116島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)、『初めてのひとり旅』(エイ出版社)等。Podcast&Radiotalk はじめました。
Podcast→「松鳥むう」で検索
Radiotalk→https://radiotalk.jp/program/65843
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- Credit :
- 写真◎松鳥むう、シヨウゴロ
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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