高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の「ヤマノハナ手帖」#16 ゴゼンタチバナ
ランドネ 編集部
- 2022年11月18日
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
「今年の年賀状、どうする?」。いまだ紅葉のラストスパートたる恵那山麓。その反面、否応なく意識させられる年末、そして新年……。いきなり始まる子どもの写真選びと、年賀状の手配&プリント、そして年末のオシゴト。気ぜわしさを紛らわすなら、現実逃避がイチバンです(笑)。さて、そんなときにまっさらなキモチにさせてくれるのが今月の主役。ゴゼンタチバナをお迎えして、山へと思いを馳せていきましょう!
Index
しっとり、でも凛として。
Data
ゴゼンタチバナ(ミズキ科)
一般的な花期:6~7月
主な生育場所:亜高山の林内
山麓からピークを目指していくとやがてぶつかる、小さな渓流や朝霧に包まれた原生林。コケやシダの水滴が輝くルートは、とてもキレイ!……と、そんなシチュエーションで現れるのが、スノーホワイトのゴゼンタチバナです。しゅっとした花びらと葉っぱのフォレストグリーン、どこまでも清楚なそのたたずまい。名前も白山の最高峰・「御前」(峰)+「橘」と、由緒の正しさバリバリ。どこか宗家っぽさが漂う、和風キャラなのです。
意外や意外、ダミーな花
とまあ、ほめちぎったままスムーズに進行させるのは本連載らしくない。名家には闇がつきものってなもんです(笑)。というのもこの「花びら」は、とんだまがいもの。これ、植物あるあるなんですが、いわば「へた」である花を守る総苞片が、花びらを兼ねているんです。総苞片という完全なモブが小悪魔化して、昆虫を引き寄せるという衝撃に、思わず“ただのガク片、気づいてガクゼン~♪”とWrapしたくなっちゃいます。Yeah,yeah!
咲いてるのか、咲いてないのか
さて、バイブス上がってきたところでハッキリさせたい。つまり、「白いのがガクなら、花はどれ?」ってコトですよ。この写真、めっっっちゃわかりにくいですが、中心の白いまん丸ちゃんがツボミですから、まだ開花前。ここから黒い花が出てくると、やっと開花宣言になるというワケ。さすが和風キャラ、奥ゆかしい……なんて感心しそうになるとこですが、ここはやはり和なツッコミを。「ばっかもーん、はっきりせんか!」(波平さん)。あ、和というより昭和っぽかった!?
6:4の法則
さーて、和風小悪魔で腹黒疑惑もよぎるゴゼンタチバナ。ヒミツはまだまだありますよ~。葉っぱをちょっと見てください。ざっくり2パターンあることに、お気づきでしょう。これ、4枚のものは花がつかず、6枚になると花が咲くというナゾ性質!これぞ、昭和のシチサン分けならぬ、ロクヨン分け!?……と得意げにカマしたくなるところですが、今秋発見したのは、なんと5枚葉(中央)。「なんじゃこりゃぁぁぁぁ…」。クマさんびっくり、森に響く筆者の悶絶。
葉っぱに装備、納豆ギミック
「ヒミツヒミツって連呼してるけど、まあそんなもんでしょ?」と思った読者の方がいらっしゃるとしたら、まだ甘い。甘いっ!自然をなめちゃいけません!ゴゼンタチバナが属するミズキ科は、『葉っぱに通う水の管(道管)が太く、葉っぱを千切っても、納豆のごとく糸を引く管が千切れない』というオドロキの特徴までもあるんです!……え?「どうってことないじゃん」って。まあ、言われてみればそうですが。いやぁ、まあ、どうってことない、ですよね……すごいと思ったんだけどな(シュン)。
甘い実はだれのため?
きっちりバイブスも下がって落ち着いたところで、ラストにご紹介したいのは、ゴゼンタチバナの果実。この実、じつはなんともほの甘い。たとえるなら、赤ちゃん用のお菓子を5倍くらい薄めた甘さ。なに?わからない?そうですね、三温糖を10倍薄めたといえばわかるかな…って無理っすね(失笑)。ところで、原生林など暗い場所を好む植物は、キホン、白い花で昆虫を呼んで受粉、その後に赤い実をつけ鳥を呼ぶとされています。さて、ゴゼンタチバナの実を喜ぶのは……だれ?その具体的な姿こそ思いつきませんが、花は白、実は赤という紅白のゴゼンタチバナの姿をお披露目したところで、今月はめでたしめでたし、といたしましょう!
さて、今回ご紹介してきたゴゼンタチバナ。いかがでしたか?とっても清楚なキレイ系でありながらもやや小悪魔的、そしてナゾの数々……ラストは具体的な野鳥の名前も上げることなく逃げ切ってしまいました(ミソサザイやルリビタキを疑ったんですが、決定打なし)。あえてナゾはナゾのままにさせていただきます。今後もしっかり観察していくと誓いますので、今は年賀状の準備をさせてください。いやマジで…!
それでは、また。皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
花ライター/会社員 成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです~!(笑)
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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