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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#32 つきよのおんがくかい

心動かされる瞬間を
言葉で表現する難しさ

山を歩く体験を文章にしてお伝えする機会をいただくことがあります。山の魅力を知ってもらえるかもしれないチャンスをうれしくありがたく思うのと同時に、いつもつきまとうのは、私が書くので大丈夫かしらという不安。

「シャクシャクと乾いた落ち葉を踏み締める心地よさ……」「鋭く鳴いた鳥の声に顔を上げると木漏れ日が眩しいほどで……」 ああもう、こんな陳腐に、山を歩くことに形をもたせたいわけじゃないのに。歩きながらもつい目の前の景色を言語化していることに気づいて、その脳内のうるささに自分で閉口してしまうこともあります。

私の語彙力なぞで、この山のすばらしさを言葉に置き換えていいものか?もっとふさわしい表現があるのでは?自分の言葉を越えた感動に気づけなくなるのでは……なんて心配までする始末。すべては自分の鍛錬不足なのですが。

そもそも、山で本当に胸打たれるというのはほとんど言葉にもならないような瞬間です。黙々と急登を上がりきった稜線で吹かれた風。テントから顔を出して見上げた星空。そんなときに口をついて出てくるのは「ああ」という、小さなつぶやき程度だったりするのです。

▲雪の利尻山山頂での一枚。実力を越えて取り組んだ山、見渡す限りの広大な海、体が飛びそうな風のなかでなんとか立ち上がって口から出てきたのは、「わー!」という叫び声だけだった

そういう意味で、「つきよのおんがくかい」には驚かされました。てっぺんで満月を見ようと山に登った主人公の目の前で、動物たちによるジャムセッションが始まるというストーリーです。説明はとくにありませんが、問題ありません。山はなにを求めて行かずともなにかが起きる場所、いや起きていることに気づく場所だもの。登る方ならわかるかと。月夜の晩ならなおさらです。

しかし演奏の音はどう表現するのかと思ったら、ネコのドラムは「シャンシャカ シャンシャカ スタタトン」、クマのピアノは「キャンキョン カリコレカリコレ」。フォントを複数混ぜ組んで変化を付けているあたりは絵本ならではとはいえ、「ジャバダバ ドゥビドゥン ドバタトン キャキャン キョン」……踊りたくなるようなリズムが、ヒートアップするソロパートが、文字の音の組み合わせで確かに伝わってきたのです。

著者である山下洋輔さんはジャズピアニストと知って納得しました。血湧き肉躍るセッションは、こんな形でも表現できるのか。私だって山での「ああ」を、あの「ああ」そのままに届けたい。心動かされるあの瞬間を閉じ込める言葉を、山を歩きながら考え続けています。

今回の絵本は……

つきよのおんがくかい

作 山下洋輔
絵 柚木沙弥郎
構成 秦好史郎
福音館書店

柚木沙弥郎さんの描く動物たちも、目玉の点のわずかな動きからセッションの熱量が伝わり、おみごと。主人公の登山ルックがなんともおしゃれで真似したいと思っています

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良

テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は13年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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仲川 希良

モデル/フィールドナビゲーター

仲川 希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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