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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#17 ジルベルトとかぜ

燧ヶ岳を越えて尾瀬沼に向かったときのこと。初心者にも関わらず少々ハードなルートを選んだ私たちは、うっそうとした森のなかで息を上げていました。岩場もある急登。時折両手を使ってとにかく目の前の道に必死に取り組んでいると、不意に森が途切れて広々とした湿原が現れました。一面キンコウカの黄色い花畑。

そしてその遠く彼方から、順々に草を揺らして湿原の上を走る風が、まるで打ち寄せる波のようにこちらに向かってくるのが見えました。「風が見える!」とはしゃぐ私たち。きつい上りで汗ばんだ体をその風が吹き抜けたときの気持ちよさといったら、思わず歓声が上がるほどでした。忘れられない山の風の思い出です。

『ジルベルトとかぜ』は、目には見えないはずの風がたしかに感じられる絵本。風はジルベルトの風船を取り上げたり、船を走らせたり、リンゴを落としてくれたりします。ジルベルトにとって風は、いっしょに追いかけっこだってできる友だちです。掃いて山にした落ち葉を撒き散らしたり、傘を壊したり、ときに風はジルベルトに意地悪ですが、自然ですから思い通りにならないのは当然だよなあと思います。

私ももちろん、あまり楽しくない風の思い出だってあります。初めての雪山登山で厳冬期の赤岳に登頂した直後、戻りの稜線でドンと体をなぎ倒すような突風に吹かれました。前を歩く仲間が目深にかぶっていたニット帽が飛ばされ、あっという間に雪面を転げ落ちていくのを眺めながら、飛ばされたのが人じゃなくてよかったと呆然としてしまいました。やはり雪の、安達太良山で吹かれた風もすごかった。最後尾に着いて歩いていた私は、強風に巻かれるたびに耐風姿勢をとってそれをやり過ごす仲間の姿を見ながら、人間の小ささを感じずにはいられませんでした。

赤岳天望荘の前で、絶景を眺めながら楽しもうと手にしたコーヒー。小屋の外に出た途端強風で飛び散り、 ウエアについた瞬間に凍ってパラパラ落ちていった。気を抜くなよ、という風の忠告だったかもしれない

写真には残りづらいですが、風の演出は山をより味わい深いものにしてくれます。小屋に早く着きすぎて時間を持て余し、空身で登った門内岳の頂上での友人とのおしゃべり。あのひとときがあんなにも軽やかな幸せに包まれていたのは、足元のマツムシソウがフワフワと風に揺れていたからかしら。槍沢で迎えた朝があんなにも輝いていたのは、風に乗って谷を渡る蜘蛛たちの糸がキラリキラリと朝日を反射していたからかしら。足を運んだからこそ触れられるその時々の風。見えずとも、逃さず感じていきたいものです。

 

 

ジルベルトとかぜ
(マリー・ホール・エッツ 作、田辺五十鈴 訳/富山房)
モスグリーンの紙に白で表現された風は生きもののよう。私の息子はシャボン玉を追うのが好きですが、あれは風とも遊んでいたのか、と、この絵本を読んで気づきました。

 

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの12年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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