Netflixドキュメンタリー『あるアスリートの告発』。オリンピックの陰で続いた性暴力を暴く
YOLO 編集部
- 2021年11月26日
近年、教師による性加害が後を絶たない。権力にある側、指導する側がその立場、権力を利用して享受する側に危害を加えるだけでなく、退職後も他の教育機関に従事し犯罪を繰り返しているケースも…。だから、今日はこの作品を紹介したい。
Index
Netflixオリジナルドキュメンタリー
『あるアスリートの告発』
作品が発表された当初から衝撃ではあったが、観てみると想像以上の事実を知ることになる。あまりの非人道的な行為に震えと涙が止まらない。
4年に一度開かれる体操の祭典・オリンピックの裏で、29年間、米国体操連盟のチームドクターを務めたラリー・ナサール医師が「治療」と称して、未成年の女子選手達に性的暴行を行ってきた。その数は500人にも上る。それだけではなく、米国体操連盟は選手達から被害の訴えがあったにも関わらず、通報の義務を放棄し、黙殺、隠蔽してきた。
本作は、この事件を調査、報道した米インディアナポリス・スター紙(以下、インディ・スター紙)と声を上げた元選手達の闘いを追ったものだ。
オリンピックの裏で隠蔽され続けた事件
2016年、米国体操連盟があるインディアナポリスの地元新聞社インディアナポリス・スター紙(以下、インディ・スター紙)が、小さな街で聞いた噂から調査を始め、同連盟の性的暴行隠蔽疑惑を報じた。オリンピックを間近に控えた全米に、衝撃が走る。
マリサ・クウィアットコウスキー同紙調査員は、「多くの学校で性的暴行に関する報告が適切に扱われていませんでした。調査範囲を広げても同様のケースばかりで、通報すべき義務が果たされていませんでした。その理由は連盟にあると分かったのです。訴えられたことのあるコーチが教室を度々替わっていることも分かりました」と語る。さらに、「連盟に警告されたことのあるコーチが数年後、再び性的暴行で訴えられていました」とマーク・アレシア同紙調査員は続ける。あるコーチに関しては、「レイプの可能性がある」とさえあるにも関わらず、連盟は無反応だった。調査を進めていくと、54名のコーチが性的暴行で訴えられていたにも関わらず、告発文に被害者かその親のサインがないためファイルボックスにしまわれるだけだった。
告発
記事が出ると、被害にあった元選手などからメールや電話が届き始める。最初にインディ・スター紙に連絡をし、声を上げたのが元体操選手のレイチェル・デンホランダーだ。「“やっぱりあれは暴行だった” そう思いました。真実を語るべき時は今しかないと思いました」と。そして、ラリー・ナサール医師の名前を挙げた。インディ・スター紙の調査員達はこの時初めて彼に疑いの目を向け始める。本作に登場する数々の元オリンピック代表等選手達の証言でもわかるように、この事件が2016年に公になって、彼女達はラリー医師のことを思い出し、気づく。「あれは性的暴行だったんだ…」と。当時、何をされているのか分からないほどに幼い彼女達に対し、その地位を利用してラリー医師は性的暴行を加えた。合宿中もオリンピック開催中の選手村も。連盟は一年以上、告発を放置していた。
2016年に公になる以前、2015年6月にすでにマギー・ニコルズ選手はナサール医師による不適切な治療について連盟に訴えていた。連盟等の書類には彼女のことは“Athlete A”と書かれていた。そして、その年のオリンピック代表選手の有力候補だった彼女だったが、代表はおろか、控え選手にも選出されなかった。
調査員や弁護士達は証言やあらゆるファイルを精査し、ナサール医師個人の加害だけでなく、隠蔽工作や口利きなど、連盟の体質の問題であることを指摘する。
「大人が」どうあるべきか
この作品は性的暴力がいかに人の人生を破壊するかを如実に表している。被害を受けていたことに気づくまでに時間がかかること、声を上げても守られるどころか反対に不当な対応を受けたり、周囲から誹謗・中傷を受けること。ニコルズ家の弁護士であるジョン・マンリー弁護士は「誰かを愛した時に、その愛情表現が奪われていたとしたら…精神を病んでしまう。彼のしたことはそれくらい罪深いんです。彼はそれを奪ってしまった。だから彼女達は苦しんでいます」と話す。
この作品は、私達大人がどうあるべきかを示している。
Mihoko Inagaki
Writer / Editor / Videographer
2006年〜高レベル放射性廃棄物最終処分問題を取材。その傍ら、『Yogini』をはじめ、トレーニング雑誌のライティング、編集に携わる。2013年、高レベル放射性廃棄物最終処分に関するドキュメンタリー『The SITE -Japan Specific-』を制作。2019年、核燃料サイクル計画映画制作プロジェクトを始動。
http://journalasia.blog22.fc2.com/
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