ハリソン・ローチ、小川徹也、北村康隆。瀬筒雄太が語る3人のスタイルマスター
NALU 編集部
- 2021年10月30日
自身もスタイルマスターと形容されることの多い瀬筒雄太。その彼の中でのスタイルマスターとは一体誰なのだろうか。「頭の中に残っている記憶の量が影響しているとは思うのですが」と説明をしてくれたうえで、挙げてくれたのは3人の名前。それは、ハリソン・ローチ、小川徹也、北村康隆というサーファーたちだった。彼らについて詳しく聞いてみた。
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ハリソン・ローチの究極のサーフィン
「誰をスタイルマスターだと思うか」という質問を聞いて、まずパッと出てきたのがハリソン・ローチ。彼は僕と同世代。16、7歳の頃から知っていると思います。最初に会ったのはヌーサフェスティバルに僕が初めて出た時。ヒート表を見てるとずっと1位上がりしてるハリソンという選手がいるなと思っていたんです。そうしたら会場でハリソンがクリスチャン・ワックとふたりで声をかけてきてくれて話をするようになりました。それから1年ぐらい経った頃、デーン(・ピーターソン)から連絡が来てハリソンが日本にトリップに行くから千葉でケアしてくれないかと。そこで初めてちゃんと一緒に過ごしたんです。ハリソンは子供の頃からコンテストでちゃんと勝ち上がっていたアスリートですよね。僕が会った頃にはすでにロングボードとショートボードでクイーンズランドのジュニアチャンピオン。まだハイパフォーマンスのボードに乗っていてサーフィンもコンペスタイルだったんですけど、当時からうまいなという印象でした。
ハリソンを決定的に「すごい」と思ったのは、その翌年、僕がまたヌーサに行った時。ちょうどサイクロンスウェルがヒットしていて、向こうに着いたその日のセッションで彼がアライアを持ち出してきたんですよ。それで一発目からどセットのチューブの超深いのを抜けてきたんです。その時の光景っていうのが……、もう神々しかったですよね。それは僕にとって究極の挫折でもあったんですけど。これはちょっと自分の手の届く範疇じゃないなと。その日はニール・パーチェス・ジュニア、サイラス・サットン、ラスタとかもショートボードで入っていたんですけど、ハリソンはやってることがちょっと別格で。それ以降ハリソンがロングボードや他のサーフボードに乗るのを見るたび、その見え方が変わりましたね。それまでは「うまさ」に意識がいっていたんですが、サーフィン自体に柔軟な考え方があったり、子供の頃スラスターで育ったベースがあったりという奥深さみたいなものを感じるようになったんです。とはいえ当の本人から「俺はなんでも乗れる」みたいな主張は感じることはなくて、ただ粛々とサーフィンしている。オールラウンドであることやいろんなサーフボードに乗ることがいいといった概念にそもそも囚われていないんだと思います。本当の意味で波に合わせているだけ、あるいはその時自分の好きなボードに乗っているだけ。そのうえでハリソンのスタイルを表現すると、なんて言ったらいいんだろう……、水あたりが優しいっていう感じでしょうか。サーフボードと水が摩擦する時の力加減がすごく絶妙だと思います。ラインをどう取っていくか、水をいかに掻き分けるか、その対話の仕方は彼独自のセンスですよね。いわばスムースということなんでしょうけど、その究極のところにいるサーファーだと思います。
唯一無二のサーファー、小川徹也
唯一無二で誰にも真似できない、あのハングテン。ハングテンで言ったらそれこそジョエル(・チューダー)を始め、他にもすごいロングボーダーもいますから、いろいろ思いを巡らせてはみたんです。ただテツさんはもうそこにかけてる。やっぱりその生き様ですよね。テツさんと初めて会ったのは僕がまだ中学生の頃。地元の福岡にテツさんがサーフボードブランドのチームで来たんです。目の前であの人のサーフィンを見た時の衝撃は本当に大きいものでした。よくよく考えてみて「僕にとって、スタイルとは何かをそもそも教えてくれたのは誰だろう」と思うと、そこはテツさんしかいないなと。中学を卒業してから僕は千 葉の太東に移住し、テツさんのサーフボードチームに4年ぐらいいたんですが、そこで学んだロングボードが僕の中でベースになってますから。
今回いただいたテーマが良い機会だったんですが、今まで見てきたいろいろなサーファーの写真、映像、記憶を改めて思い出してみたんです。それを自分の頭の中に並べていった時に、テツさんのハングテンのクオリティは抜群にすごい。アメリカに行ってもどこに行ってもあのハングテンは見ることはなかなかない。世界の人と比べてみても、自分がすごいと思うハングテンの中のトップに入り ます。フェードターンから始まって、波へのアプローチ、ライン取り、セットアップ、そして足のポジション。すべてがノーズライドのためにある。そこに関してはあの人以上にマニアックな人っていないんじゃないでしょうか。もちろんシングルフィンでもっとオールラウンドに乗る人や、あるいはフィッシュやミッドレングス乗ってもうまい人はたくさんいるんですけど、分からされる感覚になる っていうのはそうそうないです。10代の頃から振り返って考えても、そこは一貫してあるんですよね。
生粋のビッグウェーバー、北村康隆
北村さんはもちろんロングボーダーではあるんですけど、僕が初めて出会ったビックウェイバーですね。コンペやスタイルというものとはまた違った部分のサーフィンをハードコアに追求し続けている人だと思います。北村さんと知り合ったのも僕が中学生の頃。テツさんと同じチームライダーとして、一緒に福岡に 来たんです。僕が千葉に行ってからも、ひたすらデカいに波にいっている姿をよく見ていました。その頃は一緒に動くっていうことはそこまで多くなかったんですが、僕がデカい波をやるようになってから、一緒にビックウェイブセッションをするようになって。だから、そこが僕にとって1番つながりが強いところです。
他の人がデカい波に行くのと、北村さんが行くのとはまた全然違うんです。まずボードもトレーニングも関係ない。普通ビックウェイバーと言えば、ガンがあって、リーシュプラグもふたつ付いていて、っていう感じですよね。もちろんビッグウェイブは危険なところもありますから、普段からトレーニングもしていて、インパクトスーツも来てチャージしていく。そうやって備えているのがいわゆるビックウェイバーだと思うんですけど、北村さんの場合は、普通の日常の中にそのスイッチがある。そこがすごいところです。全然トレーニングもしていないし、ビッグウェイブスポットに合わせたスペシャルなボードを作ることにも特に気を使わない。ただ波がデカい時に関しては常にアンテナを張っている。そこのハードコアさこそがサーフィンだっていう雰囲気で。逆にそうじゃないサーフィンの時はめちゃくちゃつかみどころがない。ノーズライドにしても何にしても別に流してるだけ。そのコントラストが、なんかグッときてしまうんですけど。
下手したら波がデカくてもロングボードでいっちゃう。あの感覚は多分一生かかっても僕は理解できないです(笑)。
サーファーにとってのスタイルとは!?
サーフィンでは確かにスタイルが大事だと言われますよね。以前は僕も、例えば「己の道を突き進む」とかさまざまなイメージを持っていることもありました。でもここ数年、その定義が分からなくなってきている部分もあります。ひとつ言えるのは、スタイルは「うまい・へた」を超越したところにあるものだということでしょうか。僕自身で言うと、多くのサーファーから吸収してきた中で、逆にこだわりがどんどん無くなってきている感覚があって。スタイルが自分からなくなっていって、それでもなお残るもの。スタイルがあるのだとすれば、そこではじめて出てくるのかなって思います。
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- ◎出典: NALU(ナルー)no.120_2021年4月号
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テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。
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