睡眠は「人生のギフト」。スリープトレーナー・ヒラノマリさん|トレーナー探訪
久下 真以子
- 2021年08月25日
第19回は、スリープトレーナーのヒラノマリさん。日本で唯一のアスリート専門睡眠パーソナルトレーナーで、プロ野球選手やJリーガー、五輪代表選手など、多くのプロアスリートから評判を集めています。
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アスリートのコンディションを支える「睡眠のプロ」!
フィットネスやスポーツ業界を支えるトレーナーを訪問して、仕事へのやりがいやトレーニングへのこだわりをインタビューする連載企画「トレーナー探訪」。今回は、スリープトレーナーとして活躍するヒラノマリさんです。東京オリンピックでメダルを獲得したあの選手の活躍の裏にも、ヒラノさんの存在がありました。
カルテは十人十色。スリープトレーナーの仕事とは?
スリープトレーナーという仕事を、初めて聞きました。
日本で唯一というかたちでやらせていただいていますね。単発から長期まで幅広くサポートさせていただいているのですが、担当しているアスリートの競技はかなり幅広いです。最近話題になったアスリートでいうと、東京オリンピックの卓球女子団体で銀メダルを獲得した平野美宇選手は、去年からずっと担当していますね。
東京オリンピックの卓球、大躍進でしたね。平野選手の場合は、どんなサポートをしてきたんですか?
最初は腰痛がひどくて、寝具が合っていないのではないか?というところからのスタートでしたので、一緒に選びにいきました。その後はスマートウォッチなどで睡眠データをつけられるスリープテックデバイスを使い、睡眠の傾向を分析して、シチュエーションによる眠り方の工夫やお風呂に入る時間を考えました。
卓球の選手って練習量がかなり多くて、夜遅くまで濃密な時間を過ごしているんですよ。だから短時間でリラックスして眠りにつけるような疲労回復を、トライ&エラーで繰り返していきましたね。
選手1人1人に合わせて、質の良い睡眠に導くための工夫をしているんですね。
朝起きてから夜寝るまでの過ごし方すべてが、睡眠の質に関わってくるんです。また、睡眠って、ただ疲れを取るだけの作業ではないんですよ。試合や練習の時間にパフォーマンスのピークを持っていくために、体内時計をどうコントロールしていくか、というのがカギになります。私はこれを「攻めの睡眠」と呼んでいます。
攻めの睡眠!アスリートそれぞれのカルテを作成するのは大変そうですね。
睡眠の知識だけでは到底できないので、アスリートフードマイスターの資格やスポーツ医学検定など、さまざまな資格を持っています。パフォーマンス向上のためには、栄養や筋肉などの話もできないといけないですしね。あとは長期でサポートしている選手に関しては、中継やサブスクなどを利用して、ほぼ全試合見ています。
ほぼ全試合ですか。試合を見ておくことも重要になるのですか?
自分のコンディションについて、すべてを口には出さない選手もいらっしゃいます。でも、試合を見ていて「ちょっと調子悪そうだな」とか「汗がすごいな」って私が気付いたことを本人に聞くと、「じつは暑くてヤバかったです……」という答えが返ってくるんですよ。そういうときは体温とパフォーマンスとの関係についてアドバイスしたり、選手たちとの間に信頼関係が生まれたりするんです。百聞は一見に如かずではないですけど、なるべく自分の目でチェックすることを大事にしていますね。
ヒラノさんの「睡眠×スポーツ」の原点とは
自身の経験の「点」が「線」になった
睡眠という分野に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
振り返ってみれば、小さい頃から睡眠に悩んでいたんですよね。私は帰国子女で、8歳の時にロサンゼルスから日本に帰ってきたんですけど、最初はなかなか小学校になじめなくて、不眠症になってしまったんですよ。中学生や高校生になってからは、受験勉強で睡眠時間が取れないことに悩んでしまって。
じつは小さい頃から弁護士になりたくて、大学でも法学部に入学したんですけど、睡眠について考えることが多かったこともあり、就職活動では衣食住の「住」に関わる仕事に就こうと思いました。それで、大手のインテリア会社に入社したんです。
インテリア会社では寝具の担当に。全国の売り上げ8位にもなったそうですね。
それはそれで充実した毎日でした。会社員時代のある日、テレビでサッカーのクラブワールドカップを観たのが、大きな転機になりましたね。もともとスポーツ観戦は好きだったんですよ。その試合はスペインの名門・レアルマドリード対鹿島アントラーズだったんですけど、世界の強豪を相手に戦う日本人アスリートの姿に感動して、「こういう人達と仕事をしたいんだ」という新しい自分を発見したんですね。
じゃあ自分にできることは何だろう?と考えたときに、寝具の営業で身に着けた睡眠の知識を、アスリートのパフォーマンス向上に役立てることができるのではないかと。睡眠に悩んでいた自分、会社で培ったこと、スポーツ観戦での感動、そうしたバラバラの点がまさに1本の線につながった瞬間でした。
スリープトレーナーとしての仕事を始めてから、どうやってアスリートとの接点を広げていったんですか。
最初はアスリートの知り合いもいなければ、トレーナーの知り合いもいなかったですし、スポーツ業界の人脈はゼロの状態からスタートしたんですよ。だから、アスリートのマネジメントをしている会社の社長の方をInstagramとかで見つけて、アポをとって自分で営業しに行きましたね。「自分はこういうことをやりたいんだ」というビジョンを聞いてもらいました。すぐには仕事が舞い込んでくるわけじゃなかったですけど、1年半くらいしてから連絡をいただいて、Jリーガー向けのセミナーを開催したりしました。
あとは自分自身がSNSで睡眠の知識をコツコツ発信していたら、直接DMで「ヒラノさんの話を聞きたいです」というアスリートの方もいらっしゃいました。その選手は今でもサポートさせていただいています。
ヒラノさん、さすが、営業力がすごい…
フォロワーがめちゃくちゃ多いわけじゃないんですけど、ちゃんと発信を続けていれば身を結ぶことってあるんだなって実感させられましたね。私は秀でた能力はないんですけど、「続ける」とか「諦めない」ということだけは人よりも出来ていたんじゃないかな、と思うんです。周りからは「絶対成功しない」「無理だよ」って言われたこともあったんですけど、自分を信じてやりたいことを口に出し続けてきたから、今がありますね。
睡眠で、世界中の人をもっと元気に
小さなことから「口に出す」。夢を叶える言葉の魔法
お話を聞いていると、行動力には本当に頭が下がります。原動力はどこから生まれてくるのでしょうか。
生きていると、ツラいことやしんどいことってたくさんありますよね。例えば、私は受験勉強のとき。当時元気をくれたのが、私にとってはスポーツだったんです。オリンピック、サッカーや野球など、テレビで流れてくる中継を見ていると、「こんなに頑張っている人がいるんだ」って励まされてきました。
スリープトレーナーをはじめてからも挫折しそうになったことは何度もありましたけど、そのたびに選手たちの姿を見て奮起させられました。仕事としてはサポートする立場ですが、逆にパワーをたくさんもらっているんですよね。
サポートして、パワーをもらえる。選手たちとの関係が素敵ですね。どんな時にやりがいを感じますか。
最近で嬉しかったのは、平野美宇選手が東京オリンピックで銀メダルをとったときに、「睡眠や腰痛の悩みで自信が持てない時期もあったけど、睡眠の質が良くなって自信が持てるようになりました。オリンピックを楽しむことができました」と言われたことです。平野選手のお父様からも手紙をいただいて、「美宇がメダルを取れたのもヒラノさんのおかげです」というメッセージを読んで、もちろん彼女の努力の結果なんですけど、「あぁこの仕事をやっててよかったな」って涙があふれました。
素敵なお話ですね。コツコツ道を進んでいくことの大切さを感じます。
一歩踏み出す勇気ってなかなか出ないこともありますよね。特に日本にいると、周りからどう思われるだろうと評価を気にしてしまうような空気も感じます。ただ私は比較的アメリカンな性格なので(笑)。明るく頑張っていれば、絶対手を差し伸べてくれる人もいるし、応援してくれる人もいる。とにかく諦めなければ、何らかの形にはなるかなと私は思っています。
やりたいことを一歩踏み出すコツってありますか。
大きな目標じゃなくていいから、「明日何が食べたい」とか「どこに行きたい」とか、希望を口に出していくといいんじゃないかな、と思います。口に出す習慣ができると、おそらく夢や目標ができたときにも口に出せるんじゃないかな。自分の願望を周りに言うって時には怖いですけど、人を傷つけなければもっと素直にオープンに自由でいいと思うんですよね。言葉にすると夢が近づいてきてくれるような気も、私自身はしています。
睡眠をもっと身近な存在に。自分にも人にも優しく
ヒラノさんの今後の目標はありますか。
たくさんありすぎてどうしよう(笑)。でもやっぱり一番は、「スポーツ×睡眠」が当たり前の社会にしていきたいですね。まだ今は選手から個別の依頼がメインなんですけど、プロ野球やJリーグのチーム単位で担当してみたい。チームとして睡眠を意識するのがベーシックな時代になってほしいです。そのためにも、今は日本唯一の存在としてやってますけど、もっともっとスリープトレーナーを育成していきたいです。
確かに、プロチームにはフィジカルトレーナーや通訳など、色々なスタッフがいますが、スリープトレーナーは見たことがないですよね。
あとは、中国や韓国、台湾などのアジア圏の国々が日本と同じくらい「睡眠時間の短い国」と言われているんです。だから、アジア進出してみたいという夢がありますね。私自身英語も話せるので、アジアだけじゃなく世界に発信できるような人材になりたいです。そのためにももっと自分を磨かないといけないので、選手と一緒に成長しながら高みを目指していきたいですね。
一般の私たちにも、ぜひ睡眠を広めてほしいです!
今は経営者などにも睡眠のセミナーをやっているんですけど、女性たち向けにもやっていきたいという思いはあります!例えば「好きを仕事にしたい」という方々がいたら、私自身もめちゃくちゃ悩んで独立したので、何か力になれたら嬉しいです。微力ながら背中を押しつつ、睡眠のアドバイスも掛け合わせて、応援するような存在になれたらいいですね。
睡眠をこんなに考える時間、私自身今までなかったです。お話が聞けて本当に良かったです。
睡眠は「人生のギフト」です!体調や見た目だけでなく心も充実するし、これは科学的に証明されているんですけど、人の優しさに気づくことができたり、くよくよ悩まなくなるとも言われているんですよね。読者の皆さんの中にも、仕事や恋愛など色々な悩みと持たれている方も多いと思うんですけど、自分らしく生き生きと過ごすためにも、是非睡眠に目を向けてみてください。
ヒラノマリ
1990年生まれ。日本大学法学部卒業後、某大手インテリア会社に入社。2017年より、「スポーツ×睡眠」をコンセプトにした日本で唯一のアスリート専門の睡眠パーソナルトレーナー「スリープトレーナー」として活動開始。プロ野球選手、Jリーガー、五輪代表選手など、多くのプロアスリートを担当し、口コミで好評を得ている。現在は、東京オリンピックで卓球銀メダルを獲得した平野美宇選手、プロ野球・桜井俊貴投手(巨人)などを担当。
資格はスリープアドバイザー、整理収納アドバイザー2級、アスリートフードマイスター2級、上質な眠りをずっとマイスター、睡眠健康指導士、スポーツ医学検定2級。
Instagram:maririn__gram
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Profile
YOLO / コンテンツディレクター
久下 真以子
現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。
現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。