徳重佑梨|「ランニングは、もっと自由でいい。」元プロランナーが追求した新たなカタチ
久下 真以子
- 2021年10月28日
ランニングコーチでありながら、「健康美トレーナー」という肩書きでも活躍する徳重佑梨さん。実業団の選手としてトップを走り続けてきた彼女が今大事にしているのは、記録や忍耐に縛られない「自由」です。レッスンで大事にしていること、目指す女性像について語ってもらいました。 Index
フィットネスやスポーツ業界を支えるトレーナーを訪問して、仕事へのやりがいやトレーニングへのこだわりをインタビューする連載企画「トレーナー探訪」。第21回は、「健康美トレーナー」として活躍中のランニングコーチの徳重佑梨さんです。
実業団で活躍した実績抜群のランニングコーチ!
中学から陸上をはじめ、数々の全国大会や全国駅伝に出場。大学卒業後は実業団の陸上部で活躍した徳重さん。競技の世界でストイックに走り続けてきた彼女ですが、今は自らの走りよりも「人に伝える」ことにやりがいを見出していると語ります。
初心者ランナーにも大人気のランニングレッスン
「健康美トレーナー」という肩書きについて教えてください。
ただ走る、速くなる、というよりは「走れば走るほどキレイになっていく走り方」を伝えているのが、今のお仕事です。だから、記録よりはまず体を整えていくことがコンセプトになっていますね。もちろんランニングをする理由は人それぞれで、なかには記録を目指したい人もいらっしゃいますので、その人その人に合った指導を心がけていますね。楽しく走っているうちに速く走れるようになって、大会を目指す人もいらっしゃいますよ。
私もそうですけど、キレイになるために走ろう!と一念発起する人は多いと思います。
女性のお客様はやはり多いですよね。ただ、走り方を間違ってしまうとふくらはぎが発達してゴツゴツしちゃったり、たくましい体つきになってしまったりすることもあるんです。それに、ケガのリスクも高まりますしね。
正しく走れば、つくべきところに筋肉がついて、脚のラインがまっすぐになり、ウエストにくびれができてくるんです。その過程は、私自身がフォームを追求しているうちにつかんできました。
シューズさえあれば誰でもすぐに走れますが、レッスンを受けるメリットとは?
確かに「走る」という行為そのものってみんなできるので、「習う」という意識があまりないですよね。でも、「ケガをしたくない」という気持ちや「このフォームで合っているのだろうか?」というモヤモヤって、じつは多くの人が抱いてるものです。
そこで、みなさんランニングのレッスンを検索してみるんですが、初心者向けのものって意外と多くない。シューズの選び方から履き方、準備運動の仕方など、ランニングの基礎を知りたいのに……という人がけっこういらっしゃるということですよね。だから、私のレッスンでは、そうした基礎の基礎からから丁寧に教えることを大事にしています。
シューズも準備運動も深く考えたことがなかったので、ありがたいですね!
初回は、グループレッスンか体験パーソナルレッスンで基礎を教えて、2回目以降からマンツーマンのレッスンに移っています。というのも、人によって目指すものが違うので、同じレッスンを受けていたら必要なものと不要なものが出てくるんですよ。
パーソナルレッスンの頻度で多いのは、1ヶ月に1回くらい。次のレッスンまでに、伝えたことにしっかり向き合って走ってもらう期間を設けるのも大事なことだと考えています。
”勝つため”に走り続けた選手時代
中学から陸上を始めて、大学卒業後は実業団の強豪チームに所属していたんですね。
大学3年生のときに行った合宿先にその実業団チームも遠征に来ていて、たまたまチームマネージャーが私の走りを目に留めてくださったのがきっかけでした。ちょうど進路に不安を抱いていたときだったので、本当にありがたいご縁だったと思っています。
ただ、じつは選手生命は長くはなかったんですよ。というのも、所属2年目に大ケガをしてしまったんです。
それは大変でしたね……どんなケガだったんですか?
左のお尻の付け根を筋断裂して、全治6ヶ月でした。それまで順調に選手生活を過ごしていたのが、一気に崩れ落ちたような感覚で。無理やり治して走っても、かばってしまうことで結局今度は右脚を痛めたり、その後また同じ箇所で左のお尻の筋断裂をしてしまったり……もう気持ちが追いつかなくなって、所属3年でしたが引退を選びました。
その後、走ることからは離れていたんですか?
所属企業に人事部として残って、6年半の間働きました。それまで「勝つため」に自分を追い込んできましたけど、ケガのこともあって、走ることが嫌いになってしまったんですよ。だから、引退後は一切走っていなかったです。ただ、競技を辞めた反動で20kgも太ってしまって……!いろいろなダイエットに手を付けました。それでも痩せなくて、最終的には料理教室に通って食事法を身に着けました。
あとは、「姿勢」と「歩き方」にも気をつけるようになりました。いろいろな筋トレやダイエットの本を読みあさった結果、共通していたことです。無理して運動するというよりは、習慣を変えていくことで自然と体が変わっていくということも、このとき実践して学びました。だから、その自分の経験を通して、体を整えていくスキルを伝えていきたいなと。
嫌いになってしまったランの道に、再び戻ってきたんですね。
最初は、ランニングを避けようと思ってました(笑)。でも、自分だからこそできることは何だろうと考えたときに、「自分が走る」ではなく「走ることを人に教える」だったんですね。そして、実際に人を集めてやってみたら、すごく楽しくて!
やっぱり、走ってみたら楽しかったんですね……!
そうなんですよ。といっても、それまでとは違って、「人に教えることの楽しさ」を新しく発見したような感じです。青空の下でみんなで走って、その楽しさを共有するってこんなに素敵なことなんだと気付いてからは、どうやってレッスンを組み立てるか、どうやってフォームを直すのか……ということをすぐに考えている自分がいましたね。気が付けば、ランニングコーチの道を生きていました。
ランニングは、もっと自由でいい。選手だったからこそ思うこと
「ランニング=根性」の固定概念を覆す指導とは
ランニング指導をするうえで、大切にしている「コーチ像」はありますか?
「見た目に憧れてほしい」という願いはありますね。競技選手時代は、髪型やファッションを楽しむなんてことは無理でした。例えば、帽子に髪が収まるようにツーブロックにしたらオシャレをしているとみなされて怒られましたし、とてもオシャレができるような空気感ではなかったんですよ。
でも、オリンピックを見ていても、海外選手ってピアスやネックレスをつけているし、髪型も長く伸ばして下ろしている人がいるじゃないですか。「もっと自由でいいんだな」って改めて気付かされたと同時に、自分も「あの先生みたいになりたい」と思われるような存在になりたいと考えるようになりました。
お手本や憧れの存在が身近にいると、頑張れますよね。
見た目以外の面でも、「自由」でいることが大事だなって思います。例えば、おやつ。驚かれることが多いんですが、私はいまでも毎日食べていて、「おやつを食べても姿勢や走り方を直せば体は整ってくるよ」と伝えています。
体作りにおいて「我慢」をしている人ってすごく多いと思うんですけど、精神的なストレスはダイエットの敵ですから、無理をしないことが一番です。「ランニング=根性」みたいなイメージは強いですけど、私根性全然ないですしね(笑)。
おやつは控えましょうって言われるのかと思っていたので、意外でした。
あとは、「先生は大会に出ないんですか?」ともよく聞かれるんですが、「出ません」って言ってます(笑)。「トレーナーは大会に出て走っている」という固定概念を取っ払って、「トレーナーはこうあるべき」みたいなものをどんどん壊していきたいんですよ。
記録を目指す走りを第一にしなくなったからでしょうね。でも、「この大会楽しそうだな、このコース走ってみたいな」と思えば出るかもしれないですね。
「それでいいんだ!」と、いい意味で肩の力が抜けそうですよね。
そう、もっと自由に走っていいんですよ。過去の私は地味だったし、制限が多くて苦しいこともあったので、だからこそみなさんにはランニングが楽しいものだと思ってもらいたい。外に出るだけでメンタルが整ったり、お散歩気分を味わえますし、音楽を聴きながら考えを整理できたりして、「自分の時間が取れる」というのがランニングの魅力ですね。
ランニングの喜びを幅広い世代に伝えたい
今後、徳重さんが取り組んでいきたいことはありますか?
子どもたちに走るフォームや楽しさを伝えていきたいですね。走るのが苦手、キライという大人は多いですが、それって小さい頃に基礎を教えられないままがむしゃらにマラソン大会で走らされていたりして、楽しさを感じられなかったからなんじゃないかなとも思うんです。個人プレーながらも仲間と走る喜びだったり、走り終わった後の達成感だったりを伝えていけたらいいなと頭に描いています。
老若男女にランの楽しさが広がっていってほしいですね。
そうですね。女性が美しくなるためのランニングもまだまだ発展途上なので、引き続き取り組んでいきたいです。まだまだランニングは、記録を目指すものというイメージが根強く残っていると肌で感じているんです。一緒に広めてくれる指導者も育てていきたいですね。
徳重さんにとって、「ランニング」は切っても切れない存在ですね。
現役を引退した時は「二度と走るか」って思っていたので、こうやってランの世界に戻ってくるとは自分でも想像していませんでした。もはや、私にとってランは「腐れ縁」というか(笑)、切っても切れない相棒のような存在でもありますよね。選手から指導者になったことで、ひとつのことに対していろいろな関わり方があることを実感したし、ランニングに視野を広げてもらったような気がします。
「こんな女性でありたい」という理想像はありますか?
年齢を重ねていくごとに、どんどんキレイになっていきたいですね。実際に20kg太った10年前よりも、今のほうが若く見えるといわれますし、年齢を重ねることは必ずしも悪いことじゃないなと感じています。
私が通っていた料理教室の先生が50代の女性なんですけど、恋愛して再婚もされて、会うたびにどんどん若々しくなっていくんです。そんな姿を見て、心から「素敵だな」って。ランニングを通して、私もそんな風になれたらいいなと思っています。
徳重佑梨(とくしげ・ゆり)
1987年、大阪府出身。中学・高校・大学と陸上長距離選手として全国大会・全国駅伝に数々出場。大学卒業後は、実業団チームで活躍。2年前に起業し、現在はランニング指導に特化。”走るはキレイの最短距離”を理念としてグループレッスンやパーソナルレッスンを行うほか、各地でイベントを開催。2021年3月から「資生堂ランランビューティー」トレーナーを兼任している。
Instagram:yuri.healthy_body
ブログ:https://ameblo.jp/curiosity-fit
その他の「トレーナー探訪」の記事はこちらから。
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Profile
YOLO / コンテンツディレクター
久下 真以子
現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。
現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。