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瀬立モニカ・パラカヌー|「笑顔は副作用のない薬」に込められた真意とスマイルの作り方

連載「アスリートの女神」の第2回は、パラカヌーの瀬立モニカ選手です。リオ・東京と2大会連続でパラリンピックに出場した瀬立選手は、これまで自叙伝を出版したり、パラカヌーが映画の題材になるなど注目を集めています。

連載「アスリートの女神」
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パラリンピック界のヒロイン・瀬立モニカ選手に迫る!

第一線で活躍する女性アスリートにインタビューして、競技の魅力や選手の生きざまに迫る連載「アスリートの女神」。今回は、瀬立モニカ選手です。パラカヌーの魅力や自慢の肉体美の作り方に加え、モットーにしている「笑顔は副作用のない薬」という言葉に込められた真意やパラスポーツを通して伝えたい思いについて聞きました。

パラリンピック開会式での活躍、競技の悔しさ

注目を集めた東京パラリンピックから3ヶ月弱が経ちましたね。

もうそんなに過ぎたのか、と遠い昔のことのように感じてしまいますよね。金メダルを目指していた東京パラリンピックでの結果は7位で、思い出すだけでもすごく悔しいんですけど、たくさんの人に支えられて出場できたことはとても幸せです。開会式ではパラリンピック旗のベアラー(運び手)も務めさせてもらって、いろいろな意味で記憶に残る大会となりました。

今は少しはゆっくりできているのでしょうか?

東京パラリンピックが終わってから手首を手術したこともあって、物理的にトレーニングできない期間があったので少しはゆっくりしましたね。でもなんだかんだ次のパリまであと3年で、日本代表になるための予選も2年を切っているんですよ。だからすでに前を向いていて、「次の活動拠点はどうしよう」とか「チームモニカの体制はどんな風にしよう」といった具合に、土壌を耕している感じですね。

改めて、パラカヌーはどんな競技なのか教えてください。

カヌーに乗って、直線200mのコースを誰が一番速く漕げるかというシンプルな競技です。私の場合、それを54秒台(自己ベスト)で漕ぐんですが、世界記録だと51秒台ですね。主に下肢障がいのある選手が対象の競技で、障害の程度が重いL1クラスから程度の軽いL3クラスまで3つの階級に分かれているんですけど、私は脊髄損傷の障害でL1クラスに属しています。

陸上や水泳などと同じようにタイムで競う競技なので、持っている実力がそのまま反映されやすいのも特徴です。パワーそのものも必要ですけど、そのパワーを水上という不安定な場所でいかに効率よく発揮できるかも大切。だから、パドルさばきは繊細なコントロールがカギになりますね。

パワーと技術、両方が求められるんですね!

健常者のカヌー選手であれば、足を踏ん張って荷重移動ができるんです。ただ私たちは下半身が不自由なので、肩甲骨をうまく使って上半身でバランスを取らなければいけないのが難しいところかもしれません。それでも、水の上をスイスイ進んでいく感覚は、まるでアメンボみたいになった気分で楽しいですよ。

筋トレ動画はSNSでも大人気!

モニカ選手といえば、鍛え上げられた筋肉ですよね。

パラカヌーは広背筋を使う競技。腕の筋肉だけだと馬力が小さいので、背中でしっかり引いてパドルに力を伝えるようにしています。筋トレをしている人であれば、バーベルを薬指と小指で持つように意識していると思うんですけど、じつはパドルも同じです。パドルの持ち方ひとつとっても、速く漕ぐ秘訣が隠されているんですよね。

では、背中のトレーニングは重点的に行っているんですね。

かなりいじめ抜いています!あと、上腕三頭筋は私の「チャームポイント」です(笑)。背中と並んで、水を引くときに使う部分なんですよ。

Instagramのスイカトレーニングは印象的でした(笑)

 

懐かしいですね。いや、おいしそうだな~って眺めていたら、ついやりたくなっちゃって……(笑)。

二の腕まわりの太さは34cmあって、カヌーを始めた時に比べたら7~8cmは大きくなりました。体全体で見ても体重は10kg近く増えて、海外の選手と並んでも「体格負けてないかも!」って思えるようになりましたよ。でも、意外と握力は普通の女の子と同じくらいで、およそ20kg重です。

体づくりをするうえで、心がけていることはありますか?

プロテインはあまり飲まず、バランスのいい食事を心がけています。私は下半身がマヒしていて、基礎代謝量が1100kcalとアスリートの割には少ないので、食べすぎると太ってしまうんですよ。1日のタンパク質は90gを目安に、肉と魚を食べる。炭水化物はお米をしっかり3食取り入れて、1食160gにする。その他にサラダや果物でビタミンを摂る……といった具合です。

アスリートには食事が本当に大切ですよね。

栄養士さんのアドバイスももらっていますし、母やコーチがしっかりと考えて作ってくれるので、ありがたいですね。私は愛をこめて炊飯器のスイッチを押したり、愛をこめてお箸を並べたりする係です(笑)。あとは、入浴中にバスソルトで肌を磨いていますね。肌がツルツルになるとトレーニングのモチベーションも上がるので、至福の時間です!

社会的影響力のあるパラアスリートに

「笑顔は副作用のない薬」に至るまで

モニカ選手は、笑顔がトレードマークで本当に似合いますよね。

私が障害を負って入院していた高校生のときに、母から言われた言葉をいまも大事にしているんです。それが「笑顔は副作用のない薬」。どんな薬を使っても治すことはできないけど、笑顔でいればまわりの人が幸せになるし、まわりの人たちが幸せだったら、それは自分にも返ってくる。今では笑顔を意識してなくても「モニカって明るいよね」って言われるくらい、自然と笑顔でいることがしみついてきたのかもしれませんけど、このときの母のおかげだと思っています。

素敵なことです!障害を負ったキッカケは何だったのですか?

体育の授業で倒立から前転をしようとして、バランスを崩して首から落ちたんですよ。そのときは「バキバキバキッ」って音が自分で聞こえました。しばらく横になって休憩していたら治ると思ってたんですけど、時間が経っても起き上がれなくて……人生で初めて救急車に乗りましたね。入院中に、胸椎の損傷で一生歩けなくなるという宣告を受けました。

生活が一変しますよね。そのときはどんな心境でしたか?

結果的には通っていた高校に復学できたんですけど、最初は車いすだとそれが無理って言われたんですよ。自分自身は何も変わってないのに、車いすになったことで社会から取り残されているような気分になって……社会ってこんなにも厳しいんだな、と思ったのが率直な心境でした。あとは、車いすで満員電車に乗れるだろうか、やりたかったファミレスでのアルバイトはもうできないのか……結構、現実的なことを思い浮かべましたね。

そんなとき、さきほどの「笑顔は副作用のない薬」という母の言葉に救われたんです。イヤホンしながら下を向いて通学していたんですけど、通学途中の駅で駅員さんに助けてもらいたいって思ったときに、実際に笑顔を心がけて話しかけてみたら、すごく会話が弾んで輪が広がっていったんですよね。その「ハッピー&ハッピー」な瞬間が私のなかですっごく嬉しくて、お互いに幸せでいられることって大切なことだなって思えたんです。

無意識な時間って自分が笑顔かどうかも忘れてしまうんですけど、心がけることは大事ですね。

笑顔でいるコツは、顔洗った時に鏡を見て、ちょっと自分に向って笑うんですよ!1日の始まりに笑顔をセットしてから家を出ると、たいていのことは乗り越えられるんです。とはいえ、例えばツラいことがあったときって笑うのも本当にしんどいですよね。でもとりあえず表情だけでも笑っておけば、自然とハッピーになっていることも実体験としてありますね。

競技生活において笑顔でいてよかったと思う瞬間は、海外選手と交流しているときです。ムスッとしていても会話は生まれないんですよね。ネットワークが広がると、自分の選手としての可能性も広がっていくような気がしています。

将来の夢はお医者さん!競技との両立でリスタート

モニカ選手の今後の目標は、なんといっても3年後のパリパラリンピックですね。

東京が終わって少しゆっくりする時間もあったけど、体を動かすことは心身の健康を保つためにもすごく大切なことだなって気付かされた期間でもありました。パリに向けてまた覚悟ができたので、頑張っていきたいですね。東京では金メダルを目標にしていたんですけど、パリではどんな色でもいいから表彰台に立ちたい。それくらいメダルに執着心を持って、挑んでいきたいです。

パラアスリートの活躍は、共生社会を考えるうえでも大きな影響力がありますね。

私は大学で体育学系の学部に通っているんですけど、教室だけじゃなくてキャンプや野外活動の授業もあるんです。同世代の子たちと一緒に過ごすことで、「モニカがこんな風にしていたから、将来教員になった時に障害のある生徒がいたらこんな風に接しよう」、「最初から無理だと決めつけるんじゃなくて、何ができるかを考えよう」って周囲が感じるきっかけになっていたらいいなと心の中で願っているんです。

身近に障害の当事者がいないと、こういうことを考えるきっかけってなかなかないですよね。東京パラリンピックでパラアスリートを「かわいそう」から「かっこいい」って思った人が増えたように、私もこれからももっともっと活躍して、若い世代を中心に、共生社会を考えるきっかけが増えればいいなと思っています。

モニカ選手には、もう1つ夢があると聞きました。

じつは、医者になるのが以前からの夢なんです。私が障害を負った時に支えになってくれた病院の先生のように、私も誰かの支えになりたい。じつは今、大学と並行して医学部受験の予備校に通っています。パラカヌーでメダルを取るのも医学部に入るのもハードルは高いけれども、私にとってはどちらも実現したい大きな目標。だからどちらかをあきらめるのではなく、両立していくことにしました。

かっこいい!女性、パラアスリート、医者。いろいろな意味でロールモデルになりそうです。

カヌー以外でも、社会で活躍できる人になりたいですね。競技と勉強どちらもこなすのは大変ですけど、切り替えをうまくすれば、1日5時間くらいは受験勉強の時間は作れるものですね。メダルを取れなかったのは悔しいけど、だからこそ生きる道の選択肢が増えたとポジティブにとらえています。まずは今通っている大学の卒業が先ですが……頑張ります!

瀬立モニカ(せりゅう・もにか)

1997年、東京都生まれ。パラカヌーでリオパラリンピック・東京パラリンピックに日本代表として出場。中学のときにカヌーに出会う。高校1年の時に体育の授業でケガを負い、車いす生活に。その後パラカヌーを始める。筑波大学体育専門学部在学中。将来の夢は医者。著書に「パラアスリートの折れないココロのつくりかた」。また2020年にはパラカヌーを題材にした映画「水上のフライト」が公開され、女優の中条あやみが主演を務めたことから、パラカヌーに注目が集まった。チャームポイントは上腕三頭筋。
Instagram:monikaseryu

その他の「アスリートの女神」はこちらから。

連載「アスリートの女神」

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久下 真以子

YOLO / コンテンツディレクター

久下 真以子

現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。

久下 真以子の記事一覧

現役のアナウンサーでスポーツライター(専門はパラリンピック、野球、サッカー)。トレーニング好きが高じてYOLOメンバー入り。夢はベストボディ出場とフルマラソン完走。欲しいものはウエストのくびれ。猫と一緒に暮らす30代女子。

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